第七話 思い出


「じゃあ朝陽ちゃん、このまま家に行く?それとも何処か寄る所ある?」


 満面の笑みを浮かべた夕優姉さんがそう聞いてきた。


 寄る所ねえ……。


 ……あ。


隠神神社いぬがみじんじゃに行きたいです」


 隠神神社。


 俺とちよちゃんが出会い、さよならをした、とても大切な思い出の場所。


「あのおんぼろ神社に?」


「はい、そうです」


「何をしに行くの?」


「懐かしいなって思ったので」


「ふーん……まあいっか。じゃあ神社に向けてしゅっぱーつ!」


 ………


 ……


 …


「着いたよー。相変わらずぼろぼろだねーここ」


「そうだね、もう何年もこのままだもんね」


「じゃあちょっと行って来ます」


「あ、あたしも行くよ」


「いえ、すぐに戻りますから、1人で行かせてください」


「えー、でもー」


「ゆーちゃん、あー君を困らせちゃ駄目だよ」


「わかったよー……」


「行ってらっしゃい。私達の事は気にせず、ゆっくり行って来てね」


「ありがとうございます。行って来ます」


 俺は2人と別れ、神社の石段を登り始めた。


 石段を一段一段と登るにつれて、ちよちゃんとの思い出が脳裏に浮かぶ。


 あそこで何をしたか、ここでよく遊んだとか、そんな思い出達が。


 さらに石段を登り、本殿の前までやって来た。


 あの日ちよちゃんに指輪をもらった場所。


 あの日ちよちゃんに告白された場所。


 あの日ちよちゃんとキスをした場所。


 あの日……ちよちゃんとさよならをした場所。


 幸せな思い出と辛い思い出が交わって複雑な気持ちになる。


「ちよちゃん……早く……早く会いたいよ……」


 いつのまにか、頬に暖かい雫が流れていた。


 俺はそれを拭って深呼吸する。


 そして、本殿に背を向けて石段を降り始めた。


 その時、カラン、コロンと音がした。


 この音……ちよちゃんがよく履いてたポックリの音?


「ちよちゃん⁉︎」


 急いで振り返るが誰もいなかった。


 幻聴……?


 そうだよな。


 ドラマじゃないんだから、そんな都合良くはいかないよな。


 さ、帰ろ帰ろ。


 俺は再び石段を降り始めた。






 ______朝陽、おかえりなさい。

 ずーっとずーっと、貴方を待ってたよ______

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る