第八話 叔父宅


「お待たせしました」


「あ、おかえりー。って、大丈夫?」


 そう言うと、夕優姉さんがハンカチを取り出して顔を拭いてきた。


「ちょ、近い近い⁉︎急にどうしたんですか⁉︎」


 顔が近すぎて、いい匂いがして凄くドキドキする。


「どうしたって、涙の跡があったからつい」


 手で拭ったのにまだついてたのか。


 恥ずかしい……。


「あ、ありがとうございます」


「あー君、何かあったの?」


「あ、いや、何かあったというか、少し感傷に浸ってただけです……」


「感傷に?」


「ええ。ここは俺にとって、とても大切な場所ですから」


「思い出の場所って言ってたもんね」


「そういえば、朝陽ちゃん、ここでよく遊んでたよね」


「そうだったね。まーちゃんと3人でよく見かけたね」


「あー、そういえば、ちよちゃんと遊んでた時に姉さん達とよく会いましたね」


「「………」」


 姉さん達の表情が固まり、無言になってしまった。


「どうしました?」


「いや、何でもないよ!」


「ええ、気にしないで」


 えらく焦ってるけど、なんなんだろう?


「そ、それより、用事が終わったならそろそろ帰ろうか!」


「そうですね。我儘を聞いてもらってありがとうございました」


「気にしなくていいよ。私達もいろんな所に行けて楽しかったし」


「よし、帰ろう!我が家に」


 俺達の乗った車は叔父宅に向かって走り始めた。


 ………


 ……


 …


「ただいまー!」


 叔父宅に着くと、夕優姉さんが勢いよく扉を開けた。


「ただいま。ほら、あー君も上がって」


「お邪魔しまーす」


「お姉ちゃん、ママが居ない」


「え?車はあったよ?」


「でも何処にも居ないの。ちょっと電話してみるね」


「とりあえず、あー君の荷物を置きに行こうか。2階に客間があるから案内するね」


「はい」


「今日はここを使ってくれていいからね」


 案内された客間は、16畳くらいの和室だった。


「かなり広いですね」


「ふふふ、そうでしょう?お父さんの見栄ってお母さんが言ってたよ」


 あー、確かに叔父さん見栄っ張りだったなー。うちの親父といい勝負だったな。


「なるほど、納得です」


「お姉ちゃーん、ちょっと来てー!」


 夕空姉さんと話していると階下から夕優姉さんの声がした。


「何だろ?ちょっと行ってくるから待っててね」


「はい、わかりました」


 ………

 ……

 …


 遅い。


 かれこれ20分は放置されている。


 待ってと言われてるから、何もすることが無い。


 ♪〜♪〜〜♪〜♪


 あれこれ考えていると、携帯が鳴り始めた。


 画面をみると相手は姉ちゃんだった。


 昼間の一件で出たくないけど、無視する訳にはいかないし……。


 はぁ……とりあえずでるか。


「はい、もしもし」


『あ、朝陽?今時間ある?』


「うん」


『あのね、叔母さんに用があるんだけど、電話が繋がらくて困ってるの。だから、一緒にいるなら伝言してほしいんだけど』


「いや、叔母さんとはいないよ。というか、今日会ってない」


『へ?会ってない?どういうこと?』


「何か叔母さんにトラブルがあったみたいで、代わりに夕空姉さんと夕優姉さんが迎えに来てくれたんだよ」


『……………』


「どうかした?」


『はああああああああああ、あり得ないんだけど‼︎」


「おわっ!」


 あまりの声のデカさに、耳がキーンとなって痛い。


『夕空だけならまだしも、夕優もですって!朝陽、何かされなかった?』


「何もされてないよ」


『なら良かった……でも、それじゃあ余計に困ったな……』


「何が?」


『あんたの宿泊先よ。夕優にバレない様に連れて行ってもらう様に頼もうと思ってたのに……マジで困った……』


「あー、宿泊先なんだけど、色々あって叔父の家に泊まる事になったから」


『はあああああ⁉︎何で⁉︎何でそうなったの⁉︎』


「まあ色々ありまして……」


『夕優と同じ屋根の下って、空腹の猛獣の檻に入るようなものなのに⁉︎あんた、あいつに襲われたいの⁉︎』


「いや、夕空姉さんや叔父さん達もいるんだから大丈夫だよ」


『それはそうだけど……』


「心配してくれてありがとう」


「あー君、遅くなってごめんね。あ、電話中だったんだね」


 姉ちゃんと適当に喋っていると、夕空姉さんが戻ってきた。


「あ、大丈夫ですよ。相手は姉ちゃんですから」


『今の声って夕空だよね?ちょっと代わって」


「夕空姉さん、姉ちゃんが代わってくれって」


「はいはい、どーしたのまーちゃん?うん、うん…………」


 姉ちゃん達の楽しげな会話を聞いていると、ドタドタと階段を上がってくる音が聞こえてきた


「お姉ちゃん!朝陽ちゃん呼んでくるのにどれだけ時間がかかるのよ!」


「ごめんねゆーちゃん。まーちゃんとお喋りしてたらつい話し込んじゃって」


「真昼と?そんなのさっさと切っちゃえばいいんだよ」


 そういうと、夕優姉さんは通話終了を押した。


 しかしすかさず再び着信音が鳴る。


「とりあえず大事な話があるから下へ行こう」


 と言いながら、夕優姉さんは電源を切ってしまった。


 俺の携帯なのに……。


 っていうか、大事な話ってなんだろう?


 話の内容を気にしながら、姉さん達の後をついていった。

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