第九話 お泊まり


「で、大事な話ってなんですか?」


「えー、この家にはあたし達しか居ません」


「今はですよね?後から叔父さん達が帰って来ますよね?」


「それがね、お父さんとお母さん、今日帰って来られないんだって」


「は?じゃ、じゃあ、今日この家には、俺達だけ……?」


「そうなんだよ。一応朝陽ちゃんにも伝えておかないとって」


「……ります」


「え?」


「帰ります!さすがに若い男女3人だけで一晩過ごすのは無理です!駄目です!」


「ねー、お姉ちゃん。正直に言ったらこうなるって言ったじゃん」


「だけど、秘密にしてたら信頼関係にヒビが入るよ?それは駄目だよ」


「まあ、正直に言ってくれたのは嬉しいです。でも、どうしようかな……今夜の宿……」


「このまま家でいいじゃん!絶対何もしないからさ!」


「そうだよ、あー君。まーちゃんにもよろしくって頼まれたし、美味しいご飯も作るから」


「……わかりました。お二人を信用します。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」


「やったー!朝陽ちゃんとお泊まりー!」


「ふふふ、子供の頃以来だね。じゃあ、早速ご飯の準備しないとね」


「あたしも手伝うー!」


 2人とも凄く楽しそうだ。


 そんな2人の姿を見ながら夕飯の完成を待った。


 ………

 ……

 …


「あー君、どうだった?美味しかった?」


「凄く美味しかったです!今まで食べた物の中でもトップクラスですよ!」


 本当に美味しかった。


 そこらのファミレスじゃ太刀打ち出来ない、洋食屋レベルの美味さだった。


「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいよ。また作ってあげるね」


「ええ、楽しみにしてます」


「………」


 そんな夕空姉さんとの会話を夕優姉さんがじっと見つめていた。


「どうかしましたか?」


「……他人行儀」


「え?」


「やっぱり他人行儀だよ!昔みたいに普通に話そうよ!」


「昔みたいにって言われても……」


「昔みたいに夕優ちゃんって呼んで!あと、敬語禁止!」


「いや、それは無理ですよ。年上の女性を夕優ちゃんなんて呼べませんよ」


「やーだ!夕優ちゃんが駄目なら、せめて夕優姉とかはどう!」


「……わかった、わかりました。ゆ、夕優姉……これでいいですか?」


「敬語なのが嫌だけど、呼んでくれてありがとう!」


 夕優姉の屈託の無い笑顔にドキッとした。


「あらあら、ゆーちゃんだけずるい、私も呼び方を変えて欲しいな」


「夕空姉さんの呼び方ですか?……難しいな……じゃあ、夕空さんでどうですか?」


「それならさんをとって、夕空がいいな」


「いや、流石に呼び捨てはちょっと……」


「本人が良いって言ってるんだからいいんだよ」


「あ、夕空……」


「ふふふ、嬉しいなあ」


「お姉ちゃんだけズルくない⁉︎あたしも夕優がいい!」


「夕優姉はもう決まったので変更は受け付けません」


「ぐぎぎぎ」


「まあまあ、ゆーちゃん落ち着いて。後は敬語だけだね」


「こればかりは無理ですよ。年上には敬語。これは俺の絶対ルールですから」


「そっか。まあ、無理矢理は駄目だから、少しずつ慣れていけばいいよ」


「ありがとうございます」


「さ、お喋りはここまでにして、お風呂の時間だよ。あー君からどうぞ」


「はい、ありがとうございます」



「ふう……」


 湯船に浸かるとため息が出た。


 今日は疲れた……。


 変な起き方して、飛行機乗って、買い物して回って、神社に行って。


 でも一番疲れたのは、さっきの呼び方を決めた時だな。


 俺もタメ口の方が楽だけど、流石にそれは駄目だ。


 しかし……夕空と夕優姉か……。


 姉ちゃんが聞いたら発狂ものだな……。


 ………。


 さて、そろそろあがるかな。


 長湯は身体に悪いしな。



「いいお湯でした、ありがとうございます」


「いえいえ。お布団敷いておいたからいつでも眠れるよ」


 この人、本当に完璧超人だな。


「夕空は良い奥さんになりそうですね」


「え⁉︎そ、そうかな……?」


「ええ、夕空の旦那になる人が羨ましいです」


「そっか……じゃ、じゃあ……」


「朝陽ちゃん、ゲームしよう!寝るまで暇でしょう?」


「良いですよ。でも、負けて泣かないでくださいね」


「そっちこそね!お姉ちゃんもやろうよ」


「……そうだね。片付けが終わったら行くね」


 何か言いたげだった夕空がキッチンへ消えて行った。


 少し表情が暗かった気がする。


「負けた……」


「その程度の腕じゃ傷一つつきませんよ」


「あー君、ゲーム凄く上手いんだね」


「仕事がらかなり鍛えてますからね。そこいらのゲーム上手には負けませんよ」


「そういえば、あー君って何の仕事してるの?」


「YouTuberですよ。あと副業で投資もしてます」


「へえー、何てチャンネルなの?」


「えっと、このチャンネルです」


「凄いねえ。私、よくわからないんだけど、小学生のなりたい職業1位なんだよね?そんなに稼げるの?」


「月これくらいですね」


 俺は口座アプリを開いて見せた。


「え⁉︎凄い……」


「あたしにも見せ……嘘……」


「あー君凄いね。びっくりしたよ」


「イケメンで金持ちとかハイスペックすぎ!朝陽ちゃん、世の女の理想じゃない!」


「イケメンでも金持ちでも無いですよ。結構散財しますから、貯金もそれなりですし」


「そういえば今日もたくさん買い物してたもんね」


「そうなんですよ。必要のない物も買ちゃったりしますしね」


「それでもあれだけ稼げば余裕あるでしょう?あたしもYouTuberになろうかな」


「あんまりおすすめはしませんよ?機材も必要になりますし、何を売りにするかとかもありますし。だから、稼げる人間なんて限られてますよ」


「そっか、大変な世界なんだね」


「まあ、やりたいなら止めはしないですけど」


「うー、やめとく。成功する気がしない……」


「懸命な判断だと思います」


「あ、もうこんな時間。もうお開きにして、寝ようね」


「えー、もう少し遊ぼうよー」


「駄目だよ。明日もあー君のお手伝いをしないといけないんだから、もう寝るの」


「あ、そうだったね。じゃあ、おやすみなさーい」


「あー君、おやすみなさい。また明日ね」


「はい、おやすみなさい」


 夕空達と別れ、俺も客間に戻り眠りについた。

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