第一話 初恋と約束
「きて……起き……」
「……ん」
「起き……朝……」
「……ん……んん……」
「起きて、朝陽」
「むにゃ……ちよちゃん……」
「……チッ」
「痛ったぁぁぁぁぁ⁉︎」
強烈な痛みが頬を襲い、意識が現実に引き戻された。
「はぁ……やっと起きたか」
「何⁈何事⁈」
「アンタが中々起きないから、優しく起こしてあげたのよ」
「優しく……?これが優しく⁉︎凄く痛いんだけど‼︎何をした‼︎」
「何をって、こうやってほっぺを優しーくパチンと」
そう言って素振りをして見せるが、スナップが効いた全然優しくない動きだ。
「どこが優しくだよ‼︎全然優しくないじゃないか‼︎」
「何よー、文句あるの?」
「あるに決まってるだろ!このドS‼︎」
「酷いなぁ…寝坊助な弟をわざわざ起こしてあげた優しいお姉様に向かってドSだなんて…傷つくなぁ」
パチーンと乾いた音が部屋に響きわたり、逆の頬に激痛が走る。
「痛ぁぁぁぁあ⁉︎」
「ねぇ、私ってドS?」
「いえ、優しいお姉様です!」
「良かったぁ。またドSなんて言われたら、悲しくて悲しくて手がでちゃうところだったわ」
くっ、暴力で脅しやがって…!
ドS暴君め!
「それにしても、声をかけても全然起きなかったわねぇ。幸せそうな、寂しそうな顔をして寝てたけど、どんな夢を見てたの?」
「…大切な人の…ちよちゃんの夢だよ」
ちよちゃん。
綺麗の黒髪をおかっぱにして、いつも綺麗な着物を着ていて、無邪気な笑顔が素敵な年上の少女。
友達が居なかった俺、
そして…俺の初恋の人。
あの頃の俺は、唯一の友達である彼女と毎日毎日、朝から夕方まで一緒に遊んで過ごしていた。
祖父の家で悪戯をしたり、俺の家でゲームをしたり、公園でままごとをしたり、山の中に秘密基地を作ったり。
ありきたりな遊びばかりだったけど、彼女のお陰で子供らしい楽しく幸せな日々を過ごすことが出来た。
幼かった俺は、そんな幸せな日々が永遠に続くと信じて疑わなかった。
しかし…そんな俺の思いとは裏腹に、終わりは突然訪れた。
彼女と出逢ってから1年くらいたった頃、父親の転勤で東京へ引っ越す事になった。
そのことを告げられた時のショックは、今でもはっきりと憶えている。
彼女と一緒に居られなくなる。
またひとりぼっちになる。
また苦しくて辛い日々がくる。
その恐怖が俺の心に爪を立て、激しく切り裂き深い傷をつけた。
抵抗し続ければ、親が諦めて引っ越しはなくなり、彼女と楽しくて幸せな日々を失わずに済むと信じて。
しかし、所詮は世間を知らない子供の浅知恵。
当然、俺の抵抗など御構い無しに、引っ越しの準備は着々と進んでいった。
別れの日が近づいてくる。
もうどうにもならないのだと、幼いなりに理解した。
それでも諦めきれずに抵抗しようとしたけど、そんな事をしても無駄だと姉と従姉妹に諭されて、不満を残しつつも諦めた。
そして…引っ越すことを…もう会えなくなる事を伝える為に彼女に会いに行った。
「あ、やっと来た!毎日毎日待ってたのに、全然来てくれないから凄く寂しかったんだよ!でも、朝陽に会えて嬉しいよ!今日もいっぱいいっぱい遊ぼうね!」
「ちよちゃん…」
いつもと変わらない彼女の笑顔を見た瞬間、俺の眼から大粒の涙が零れ落ちた。
「どうしたの?何かあったの?」
「………」
「…朝陽?」
「あのね…ぼく…ひっこしするの…」
「え…?引っ…越し…?」
「うん…」
「朝陽に…会えなく…なるの…?」
「うん…」
「そんな…そんな…!やっと出逢えたのに…!ずっとずっと…一緒に居られると思ってたのに‼︎」
「ちよちゃん…」
「嫌!絶対に嫌‼︎」
「ぼくもいやだよ…ひっこしなんかしたくないよ…!ちよちゃんとずっといっしょにいたいよ…!」
「なら何処にも行かないで‼︎お願い…ずっと…ずっと私の側に居てよ…‼︎」
彼女は俺に縋り付いて
「ちよちゃん…」
俺はどうすればいいかわからず、おずおずと彼女を抱きしめて一緒に涙を流す事しか出来なかった。
……………
………
…
「ごめん…朝陽だって辛いのに泣いちゃって…」
「ううん…」
涙で濡れた頬が乾いた頃、俺達は落ち着きを取り戻し、一つ約束をした。
一緒に過ごせる残り少ない時間を大切に過ごそう、少しでも多くの思い出を作ろうって。
翌日から、俺達は今まで以上にはしゃいで遊んだ。
一緒に遊んでいる時間は、別れの辛さを忘れる事ができたから。
しかし、家に帰って一人になると、辛さや寂しさなどの負の感情に襲われて、布団の中で一人で泣いた。
もしかしたら、彼女もそうだったのかもしれない。
そんな日々を繰り返し、一緒に過ごせる最後の日を迎えた。
「朝陽」
「なに?」
「今夜ね、お祭りがあるの。私達が出逢ったあの神社で」
「おまつり?」
「うん、凄く楽しいお祭りだよ」
「へー!」
「だからさ、一緒に行かない?」
「いきたい!…けど、よるにでかけるとおこら……」
この時、俺の中で燻っていた親への反抗心が再燃した。
明日になれば、もう彼女と会えない。
その原因を作った親に怒られようが関係ない。
少しでも、一分一秒でも長く彼女と一緒に居たい。
もっと彼女と過ごせる時間が欲しい。
俺は親に内緒で祭りに行くと決めた。
「…駄目かな?」
「ううん!ぼくもいっしょにいく!」
「良かったぁ…じゃあ、夜になったらまたここに来てね!」
「うん!わかった!」
俺は一旦家に戻り、夕食を済ませ夜になるのを静かに待った。
外が暗くなってきたので家族に見つからないよう慎重に家を出て、待ち合わせ場所に向かって走った。
待ち合わせ場所に着くと彼女は既に来ていて、大きな石に座り退屈そうに足をぶらぶらとさせていた。
「はぁはぁ……ちよちゃん、おまた__」
「おーそーいー‼︎待ちくたびれたよー!」
「ご、ごめん…」
「あはは、冗談だよ!ほら、早く行こう!」
「う、うん!」
彼女に手を引かれ、俺達が出逢った神社へと歩いていった。
神社に着いて俺は驚いた。
普段はぼろぼろで、人気の無い神社が沢山の人で賑わっている。
そして不思議な事に、祭りに参加している人々は皆奇妙なお面を付けていた。
「わー!ひとがいっぱいだー!」
「はい、朝陽もこれを着けてね!」
そう言っていつの間にかお面を付けた彼女からお面を渡された。
渡されたお面は口と左眼の部分にだけ穴があいた、真っ黒な能面の様なデザインだった。
そして彼女のお面は左眼ではなく右眼に穴があいて色が真っ白な以外は違いのない、俺のお面と対になっていた。
「ありがとう!」
「よーし!準備も出来たし、いっぱい遊ぶぞー!」
「おー!」
俺達は露店を周り、綿飴や林檎飴を食べ、金魚掬いや射的で遊んで祭りを満喫した。
俺は射的や金魚掬いの様な遊びには自信があった。
普段からゲームで鍛えている自分なら楽勝だと。
しかし……そんな俺の自信は砕かれた。
当然の事だが、ゲームとリアルは違う。
いくらゲームが上手かろうと、実践での経験値が無いのだから出来なくて当たり前なのだ。
そんな結果に打ち拉がれていると、隣からコルクを撃ち出す音が聞こえてきた。
いつの間にか射的を始めていた彼女は、まるで歴戦のスナイパーの如く全弾命中、露店のおじさんが可哀想に思えるくらい大量の景品をゲットしていたのだ。
「えへへ、凄いでしょ!こういう遊びには自信があるの!」
その光景に驚いていた俺に、彼女は景品を詰め込んだ袋を持って楽しそうにそう言った。
お面を付けてなかったら、きっと可愛いドヤ顔が見られただろう。
「ほんとうにすごい!ねぇねぇ、どうしたらそんなにじょうずになるの⁈」
「いっぱい練習したからかな。何年も何年も…数え切れないほどね…」
悲しい様な、寂しい様な声で彼女が呟いた。
「ちよちゃん?」
「…そんな事より、もっと楽しもう!」
何かを振り払う様に頭を振ると、いつもの元気な彼女に戻った。
「ほら、次はあっちに行ってみようよ!」
「うん!」
再び彼女に手を引かれ、また人波を掻き分けながら露店巡りをした。
「色んなお店があって楽しいね!」
「うん!すっごくたのしい!」
祭りは本当に凄く楽しかった。
夜だというのに沢山の提灯の灯りで明るく、沢山の露店で賑わう人々の
非日常的で幻想的な光景。
そして隣には無邪気にはしゃぐちよちゃんが居る。
大人になった今でも忘れない、大切大切な思い出の一つだ。
「つぎはどこにいく?」
「そうだなぁー、あ、あのお店…朝陽、あそこに行こう!」
彼女は一軒の露店を指差した。
そこは小物や玩具のアクセサリーを売っていた。
「ねぇ、おじさん。ちょっと見てもいい?」
「ん?その声は…お!ちよひ___」
「………」
彼女の声に反応したおじさんが何か言おうとすると、彼女は無言でおじさんを見つめた。
お面の隙間から見えた彼女の眼は、普段の暖かさが消え、氷の様な冷たさが宿っていた。
「え…あ…う…ごほん。いらっしゃい、嬢ちゃんに坊ちゃん!ゆっくり見ていきな!」
「ありがとう、おじさん!」
おじさんが咳払いをして接客を始めると、彼女の眼にいつもの暖かさが戻った。
「見て見て!綺麗な物がいっぱいあるよ!」
楽しそうにはしゃぎながらアクセサリーを見ている彼女は、いつもより何倍も可愛かった。
「あ…これ…おじさん、これとこれをください!」
「ほぉ…これを選ぶってこたぁ…なるほど、その坊ちゃんが…よし!今夜は気分が良いから金はいらねぇ!ほれ、持っていきな!」
彼女は
「本当⁈おじさん、ありがとう!」
「…ほんとにいいの?おじさんがこまるんじゃ…」
「ははは、坊ちゃんはいい子だな!心配すんな、困ったりしねぇよ!これは俺からのプレゼントだ!今日は俺にとって…いや、俺達にとって目出度い日だからな‼︎」
「⁇」
「ほれ、さっさと行きな!可愛い彼女が退屈しちまうぞ!」
「え?」
「彼女って…もう!からかわないでよー!ほら朝陽、もう行こう!」
「え?え?あ、あの!おじさん、ありがとー!」
「ははは!坊ちゃん、また会おうな!次は__でな!」
手を振りながら見送ってくれたおじさんの顔は、お面で見えない筈なのに、なぜか優しく微笑んでる様に見えた。
「ふぅ…ここなら誰も来ないかな」
彼女に手を引かれて長い石段を登り、本殿の前まで来た。
本殿前は先程までの喧騒が嘘の様に、虫の鳴き声一つ無い静寂に支配されている。
ここだけは人気の無い、いつもの神社のままだった。
いや…一つだけ大きな違いがあった。
昨日まで青々と茂っていた木の葉が、季節外れの淡く光る紅葉へと変わっていた。
「さてと…朝陽、左手を出して!」
「え?」
「はーやーくー!」
「はい」
不思議に思いつつも、俺は左手を差し出した。
「違う!グーじゃなくてパーにするの!」
「ご、ごめん」
「…いざとなるとかなり恥ずかしいな…」
そう言いながら、彼女は俺の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「えっと…くれるの?」
「うん、朝陽にあげる!ほら、こうすると私達みたいでしょ?」
その言葉と行動で俺は指輪の意味を理解した。
「ほんとだ、ぼくたちみたいだ!」
「これがあれば…離れ離れになっても、朝陽と繋がっていられるよね…」
いつの間にかお面を外していた彼女が寂しそうに呟いた。
「…ねぇ、朝陽」
「なに?」
「私ね、朝陽のことが大好きなの」
「え…?」
突然の告白に頭が真っ白になってしまった。
「朝陽は、私のこと好き?」
「………」
「もしかして…嫌い…?」
「ううん!ぼくも…ぼくもちよちゃんがだいすきだよ!せかいでいちばんだいすきだよ!」
いつからかは憶えていないが、俺はいつの間にか彼女に惹かれていた。
それは初めて出逢った時かも知れないし、一緒に過ごす日々の中でかも知れない。
ただ一つ確かなのは、俺が彼女の事を心の底から好きだということ。
「そっか…そっか!えへへ、凄く嬉しいよ…!」
「ぼくもうれしい!」
「すぅ……はぁ……朝陽、大切なお願いがあるの」
「おねがい?」
「朝陽が大人になったらね、私のことをお嫁さんにして欲しいの……」
「およめさん?えっと…パパとママみたいにけっこんするってこと?」
「そうだよ、私と__に…夫婦になって欲しいの…ずっとずっと二人で一緒に居られるように…」
「………」
「私には朝陽しか居ないから…本当の私を…私の全てを受け入れてくれるのは朝陽だけだから…」
「ほんとうのちよちゃん?」
「駄目…かな…?」
「だめじゃないよ!ぼく、ちよちゃんとけっこんする!ずっといっしょにいる!」
「本当…?約束できる…?」
「うん!」
「私が__でも?」
「…?よくわからないけど、ちよちゃんはちよちゃんだよ!だからやくそくする!」
「よかった…じゃあ、指切りしよう!」
「うん、いいよ!」
「「指切拳万、嘘ついたら針千本呑まーす!指切った!」」
「嬉しい…凄く幸せだよ…」
「ぼくも!けっこんしたら、ちよちゃんとずっといっしょにいられるんだね!」
「そうだよ…ずっとずっと…一生一緒に居られるよ…!だからね、私のこと絶対に忘れちゃ駄目だからね…!大人になったら、絶対に私を迎えに来てね…!」
「うん!ぜったいにわすれない!おとなになったら、ぜったいにちよちゃんをむかえにくる!」
「約束だよ…!」
「⁉︎⁉︎」
彼女に抱き締められそっと口づけされた。
初めての口づけは、少ししょっぱくて、とても甘い香りがした。
「朝陽、大好きだよ!ずっと待ってるから!朝陽が迎えに来るのを、ずっとずっとここで待ってるから!だから…寂しい…けど、朝陽が大人になるまで少しの間お別れ…だね…」
「ちよちゃん…」
「さよなら…私の__________」
彼女の言葉は吹き荒ぶ風にかき消された。
俺が最後に見た彼女の顔は、涙で濡れた頬を舞い散る紅葉の様に赤く染めてはにかんでいた。
「痛あああああああああ!」
激しい痛みが頬を三度襲ってきて、思い出の世界から現実に戻された。
「何でまた叩くんだよ!」
「何でって、アンタが自分の世界に引きこもったからつい」
「ついじゃないだろ!」
人の頬をサンドバックの様に叩きまくるこのドSは3歳上の姉、
弟の俺が言うのもなんだが
しかし、普段は猫を被っている為、周囲からの評価もいい。
だから、姉の本性を知るのは俺と従姉妹のみ。
しかしまぁ…こうやって引っ叩く時はまだマシで、別のスイッチが入ると、暴走するかなりの危険人物だ。
「まぁ、そんな事はどうでもいいけど」
人の顔を三回も引っ叩いといて、どうでもいいって…。
「まーたちよちゃん病がでてるわねぇ。アンタさぁ、ちよちゃんちよちゃんって、いつまで脳内彼女の話をしてるのよ?もうすぐ二十歳になるんだから、そろそろ現実の女の子に興味持ちなって。アンタ、結構モテるんだからさ」
「脳内彼女…⁉︎」
「あー、ごめんごめん、脳内彼女は言い過ぎだった。謝るから、そんなに睨まないでよ」
「……」
「私だってさ、アンタの話を信じてあげたいよ?塞ぎ込んでたアンタが明るく前向きになれたのは、間違いなくその子のお陰なんだから。心からお礼を言いたいよ、私の大切な弟を助けてくれてありがとう、支えてくれてありがとうってね」
「 姉ちゃん…」
「でもね、パパもママも私もそれにあの娘達も、誰もその子に会ったことがないんだよ?それはどう説明するの?」
そう、両親も姉も従姉妹も、誰も彼女に会った事がないと言う。
一緒に遊んでいる時に姉や従姉妹と会話した事があるし、家でゲームをしている時に母親に声をかけられた事もあるのに。
でも、彼女は確かに存在している。
あの時の貰った指輪も大切に持っているし、キスの感触もはっきりと覚えている。
それに…あの日からずっと彼女を想い続ける俺のこの気持ちが何よりの証拠だ。
「仮にその子が実在するとして、何で一度も会いに帰らなかったの?私達はお盆とお正月に帰省するのに、アンタは一回も帰らなかったじゃん。私がその子なら、自分の事を忘れたんじゃないか、他の人を好きになったんじゃないかって不安になるけどね。全然会いにこないアンタの事なんて、もう待ってないんじゃないかな。大人になったら結婚しようなんて、よくある子供同士の他愛のない約束なんだしさ」
「…ちよちゃんと約束したんだよ、大人になったら迎えに行くって。だから会いに行きたい気持ちを抑えて、その時間を勉強や他の事に費やしたんだ。再会した時に、一人前の大人になったよ、君を幸せに出来る男になったよって言えるように。それにちよちゃんは絶対に待っててくれてるよ。だって、俺とちよちゃんは…」
「はぁ…確かに一人前の男にはなったけどさ、頭の中が恋愛ドラマの主人公みたいになってるじゃん…って、あーーー‼︎ゆっくり無駄話してる場合じゃなかった‼︎ほら、早く着替えなさい‼︎」
「は?何で?」
「…マジで言ってんの?今日からお爺ちゃん家に行くんでしょうが!」
「あーー‼︎」
先日、大病を患い長期の入院を余儀無くされた祖父から父に連絡があった。
入院する自分に代わって、屋敷の管理をして欲しいと。
うちの家系は古く、祖父の住む屋敷は築約300年の立派なお化け屋……ゴホン、立派な古民家だ。
しっかり管理をしていないと直ぐに痛んでしまうのだ。
それなら業者に任せればいいのでは?と思うだろうが、そうは問屋が卸さない。
家系が古いだけあって、時代遅れの仕来りというか掟がある。
その掟の所為で業者どころか近所に住む叔父家族にも管理を頼めないのだ。
それで父に頼んできたのだが、父は仕事があるから不可能。
母と姉も仕事があるし、何より掟の所為で駄目。
そんなこんなで、俺に白羽の矢が立った。
俺の仕事はかなり特殊で、パソコンとネットがあれば何処でも出来る。
仮に向こうで永住する事になっても何の問題ない。
もともと二十歳の誕生日を過ぎたら向こうに行くつもりだったから、タイミングもちょうど良かった。
「おーい!まだぼーっとしてるなら、もう2、3発いっとく?」
「いや、それはノーサンキューです…!って、ヤバいヤバい!急いで準備しないと飛行機の時間に遅れる!」
「はぁ⁉︎何で昨日のうちに準備しないのよ⁉︎」
「えっと…ちよちゃんの事とか向こうでの生活とか色々と考え事してて…」
「信じらんない…!あー、もう!空港まで送ってあげるから急いで準備しなさい!忘れ物がないようにしなよ!」
「ありがとう、助かるよ!」
「貸しだからね!」
スマホ、ノートPC、財布、通帳、必要最低限の物を急いでバッグに詰め込んだ。
あとは…ちよちゃんに貰った指輪。
もうはめられないから、ペンダントにしていつも身につけている。
この指輪を見つめると、彼女の無邪気な笑顔が目に浮かぶ。
立派な大人になれたのかはわからない。
けど、必死に努力して人より少しだけ優秀な人間にはなれたと思う。
ちよちゃん、約束通り迎えに行くよ。
だからあそこで待っててね。
あの頃と変わらない俺の大好きな無邪気な笑顔で。
俺を乗せた姉の車は、空港へと向かって走り出した。
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