願ってはならぬ
女が男の願いを聞き入れて幾月か経ったある日、女が畑から帰ってきた男を迎えた時のことでした。
男は帰りの挨拶もそこそこに、ばったりと土間に倒れこんでしまったのです。
あまりに急なことで女はおろおろしましたが、男のひたいが焼けるように熱いのを手で感ずると、男を布団に寝かせてやろうと動きだしました。
幸い女は男のように力の強い娘でしたので、なんとかそうすることができました。
気がはっきりしていないので、どうしたのかは聞けませんが、男が熱病にかかってしまったようなのは分かります。
熱に浮かされ、苦しむ男に胸を痛めつつも、女は懸命に看病をしました。
その甲斐あって、なんとか男の熱は下がりました。
しかし、まるでそれと引き換えにするように、男は女のことを、少しの間しか覚えていられなくなりました。
日が昇って落ちてしまえば、男の中から女は消えてしまうのです。
毎朝毎朝、他人行儀に女の素性を問う男に、女は明るく付き合いつつも、胸のうちではそれを深く悲しんでいたのでした。
畑に出た男を待つひと頃、女はふと、この辺りにもの覚えの神様がおわしますることを男から聞いていたのを思い出しました。
童子の時分、忘れてしまいたくないようなよい話を教わった日には、その神様に花の捧げものをしてお祈りしていたのだと。
その神様に願えば、男は女を忘れずに置いてくれるやもしれません。
こう思うと、女は居ても立ってもおられなくなりました。
さっそく、捧げものにするための花を探しにゆきます。
その花が見つかったのは、奇しくも神様の祠のあたりでした。
凛と伸びた茎に、真ん中がちょこんと黄色く、そこを囲む花びらは吸い込まれるように、鮮やかな青をしているのです。
女はこの花を知っていました。
いつか男が、いにしえからこの花に込められた思いを話してくれたからです。
『
幾本かだけの慎ましやかな花束を捧げた女は、その
この願いは花の香となり、神様のもとへ届くのです。
そう、女がただの「人」ならば。
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