第2話 魔女の呪い


 1




「……私、記憶がないんです……」



 悲しげに俯いたまま、彼女はそうこぼした。その場の空気は静まり返り、告げられた青年・トキは思わず言葉を飲み込んでしまう。

 しかし、ややあってようやく我に返った彼はキッと目付きを鋭くして彼女に短剣を突き付けた。



「……アンタ、適当なこと言って誤魔化そうとしてるんじゃないだろうな。記憶がない証拠はあるのか?」


「……お、お見せできるような証拠はありませんが……本当に私、以前の記憶が無くて……。記憶を取り戻すためにこうして旅をしているんです。あの宝石は、記憶を失う前の私が持っていた唯一の物で……」



 困ったように眉尻を下げ、彼女は真っ直ぐトキの目を見詰める。汚れのないその瞳があまりにも眩しく見えて、トキは居心地悪そうに視線を逸らした。



「……チッ」



 トキは不服げに舌を打ち、短剣を仕舞う。そんな彼を見上げ、少女は申し訳無さそうに口を開いた。



「お、お役に立てなくてごめんなさい! 貴方の呪いは私が必ず解きます! 魔女には私が話をしますから……!」


「……アンタ、あの魔女に話が通用すると思ってるのか?」


「……そ、それは……」



 口篭る彼女に、トキは溜息をこぼして背を向けた。そのまま倉庫を出て行こうとする彼を、慌てて少女は追い掛ける。



「まっ、待って下さい! まだ呪いは完全に解けていないんです! もう少しだけ治療させて下さい!」


「いい。俺に関わるな」


「だめです! ついて行きます!」


「……はあ」



 面倒な奴に捕まった、とトキはうんざりした様子で嘆息し、歩き始める。無論、宣言通り少女も小走りで追い掛けてきた。「治療しましょう!」「呪印を見せて下さい!」などと背後から呼び掛ける声を一切無視し、歩き続ける彼の向かった先は数十分前に立ち寄ったのと同じ場所で。


 ガン! と扉を蹴り飛ばして入店した彼の姿に、カウンターの奥でマスターが目を丸めた。



「ああ? トキ、お前また来たのか」


「……」



 不機嫌な様子で入って来たトキを訝しげに眺めていると、忙しない様子でもう一人の客が続く。



「もう! 待って下さいよぉ!」



 はあ、はあ、と息を切らして入ってきた見慣れない少女。チッ、と不機嫌そうに舌を打ったトキとその少女の姿を物珍しげに見て、マスターは指で頬をかきながらへらりと笑った。



「……まあ、座りな?」




 2




 葡萄ジュースの入ったグラスが目の前に置かれ、紫色の水面が揺れる。少女はぴっと背筋を伸ばし、慌てて首を横に振った。



「あ、あの、私今お金が無いので……!」


「ん? ああ、いーよいーよコイツが払うから。今日はたんまり盗って来たみてーだからよ。なあ?」


「と、盗っ……?」


「余計なこと言うなよ、オッサン」



 不服げな声を漏らしながら、少女の横に腰掛けたトキは豪快に麦酒を呷る。あっという間に空になったグラスをカウンターに置けば、すぐさま新しい麦酒が置かれた。ふと、そこでマスターはある事に気が付く。



「ん? トキ、お前利き腕治ったのか。何だよ大した怪我じゃなかったんだな。良かった良かった」


「……!」



 何気なく紡がれたその言葉によってトキ自身も初めてその事に気が付いたのか、酒を握っていた左手を見下ろし、ぐっと拳を握ったり腕を上げたりしてみた。──確かに、痛みは無い。



(……あの時、ついでにこっちも治療したって事か)



 横に腰掛けている女に視線を向ければ、彼女はにこりと微笑んで会釈した。純粋無垢なその笑顔に酷く居心地悪さを感じて、彼はぱっと目を逸らす。



「……で、お二人さんはさっき何を揉めてやがったんだい?」



 グラスを洗いつつ、マスターは問い掛けた。トキはカウンターに頬杖をついたまま素っ気なく答える。



「何も揉めてねーよ」


「ほう? トキはこう言ってるが、そちらのお嬢さんはどう思ってるんだ?」



 マスターが問えば、少女はちびちびと飲んでいた葡萄ジュースを口から離してぱっと顔を上げた。



「……あ……トキさんっていうんですね、お名前……」


「……」


「ん? 何だお前ら、自己紹介もまだなのか。ったく、これだから女にモテねーんだぞ、トキ!」


「……はぁ」



 トキは溜息をこぼし、また麦酒を呷る。会話を続ける気のない彼に肩を竦め、マスターは少女に視線を向けた。



「で、お嬢さんのお名前は?」



 問えば、彼女はグラスをカウンターに置き、小さく微笑んで答える。



「あ、私の名前もまだでしたね。セシリアといいます」


「セシリアちゃんか。可愛いねえ」



 セシリアと名乗った彼女にマスターがデレっと表情を緩める中、やはりトキだけは興味無さげに酒を流し込んでいた。セシリアはそんな彼を困ったように見つめ、口を開く。



「……あの、トキさん。体の方は大丈夫ですか?」


「……もう治ったって言っただろ」


「だ、だから違います! 一時的に発作が止まっただけです! 完治はしていません!」


「……」



 二人のやりとりを眺め、マスターは訝しげに眉を顰めた。



「……何だ何だ、穏やかじゃねえ会話しやがって。トキ、説明しろ」


「……」


「トキ!」


「……魔女に呪いを受けた」



 マスターが語気を強めれば、渋々といった様子でトキは白状した。魔女の呪い、という言葉にマスターは一瞬息を呑み──ややあって再び口を開く。



「ま、魔女ぉ? 災厄の魔女・イデアの事か!?」


「……ああ」


「お、おい、魔女の呪いって……! じゃあお前、もうすぐ死んじまうって事じゃねーか!!」


「……」



 身を乗り出した彼からトキは目を逸らし、口を閉ざす。マスターはあんぐりと口を開け、やがて肩を落とすと深い溜息を吐きこぼした。



「はあ……。体を大事にしろって言ったばっかりだろ……死ぬ気かトキ」


「死なねえよ。死ぬわけには行かねーだろ」



 落胆したように紡がれた声に、トキにしては珍しく明示的に答えを返す。思わず顔を上げれば、強い意思を秘めたアメジストの双眸が真っ直ぐとマスターを見つめていた。



「……見つけたんだよ、女神の涙を。魔女が持って行きやがったけどな」


「……お前、まさか……」


「ああ」



 トキは残った酒を一気に飲み干し、空のグラスをカウンターに置く。そして彼は言葉を続けた。



「俺は魔女を追う。そして、魔女から女神の涙を奪う」


「……トキ……」


「呪いはどうにかするさ。今死ぬわけには行かねーからな」



 そう告げて彼は目を逸らし、懐から取り出した金をカウンターに置く。



「二人分だ。暫くここには来れねーから多めに置いてくぜ」


「トキ!」



 席を立ったトキをマスターは慌ただしく追い掛け、その腕を掴む。離せと言わんばかりに薄紫の瞳が睨むが、お構い無しに彼は言葉を投げた。



「行くなとは言わねえ、お前は止めて聞く奴じゃねえからな。だがその前にドブ川の桟橋の下にいるロブ爺さんを頼れ」


「……あ?」


「あの人は呪いの類に詳しい。もしかしたらその呪いとやらを解く方法を知ってるかもしれねえ、必ず行けよ!」



 マスターはそれだけ伝えると手を離し、トキの背中をばんっと叩いた。少し前のめりによろけた彼は不服げにマスターを睨んだが、すぐに目を逸らして店の戸を開ける。



「……俺が帰るまで潰すなよ、この店」


「おう、任せとけ」


「……じゃあな」



 トキは振り返ること無くそう言い残し、静かに店を出て行った。




 3




「……で、何でアンタまで付いてきてんだよ」


「も、元々は私のせいで受けた呪いですから! 私にはトキさんの呪いを解く責任があります!」


「ハァ……」



 親鳥を追う雛のごとく、セシリアは小走りでトキの後を追い掛けてきた。とは言えこの荒廃した街を女一人で歩けば一瞬で身包みを剥がされてしまうのは目に見える。俺に付いてくるのは賢明な判断か、と一人考え、トキはマスターに言われた通り桟橋の下を目指して歩き続けた。



「……それにしてもアンタ、こんな腐った街ん中まで女一人でよく無事だったな。旅慣れてるのか」



 不意にトキが問えば、セシリアは眉尻を下げて視線を落とす。次いで、落胆したような声で彼女は答えた。



「……あ、いえ……実は一人じゃなかったんですが、魔女に追われている間にはぐれてしまって……。おそらくこの街のどこかにいるとは思うのですが……」


「へえ、成程」



 あからさまに肩を落としてしまった彼女だったが、トキは特に気に止める様子もなく淡々と返事をして前に進んで行く。

 この街ではよくある話だ。広い上に入り組んだ路地が多く、常に暗くて悪臭が立ち込めているため、五感が徐々に麻痺してしまう。住み慣れた住人達ですら迷って餓死する事があるのだから、魔女に追われてバラバラに逃げ込んだというのであれば暫く再会は難しいだろう。



「……トキさんは、ずっとこの街に?」



 ふとセシリアが問い掛ける。トキは暫く答えずに黙っていたが、ややあって一言だけこぼした。



「……十年ぐらいはな」



 ただそれだけの返答。それ以上は答えてくれそうになく、セシリアはおずおずと口を閉ざして彼の隣を歩き続けた。

 そうこうしている間に二人は例の桟橋の下まで辿り着き、トキが足を止める。そのまま近くに転がっていた見窄らしい男を見下ろし、淡々と声をかけた。



「……おい、ロブ爺さんってのはどいつだ?」


「……んあぁ?」



 げっそりとやせ細ったその男は気怠そうに振り返り、焦点の合わない虚ろな瞳をギョロリと動かす。──その目が真っ先に捉えたのは、小綺麗な身なりの若い少女の姿。その瞬間、彼の目の色が変わる。



「……お、おんな……」


「……え?」


「女だあ!!」



 ガバアッ! と男は起き上がり、セシリアの腰にしがみついた。「きゃあッ!!」と悲鳴を上げる彼女の体を一気に押し倒し、我を忘れたかのように男はその体をまさぐり始める。



「ヒヒッ、イヒッ、イヒヒヒッ! 女、女だぁ! 女!!」


「ひっ、や、やだ! やめてくださ……っ」



 衣服に手を掛けようとする男に必死に抵抗するセシリアだが、その猛烈な勢いと力に適わず、あれよあれよという間にローブの中に手が滑り込んで来た。



「……や……っ」



 ぞわりと全身に鳥肌が駆け抜けたその時──ドゴッ! という鈍い音が響き、体にのしかかっていた重みが消える。



「……!」


「……おい、いきなり盛ってんじゃねーよ。質問に答えろ」


「……うう、うぐ……!」



 ふと顔を上げれば、今まで自分の上に馬乗りになっていた男が呻き声を上げながら腹を押さえて蹲っていた。どうやらトキが蹴り飛ばしたらしく、男は地面の端に転がって苦しそうに呻いている。

 セシリアはすぐさま立ち上がった。



「あ、あの、大丈夫ですか?」



 するとあろう事か、彼女は今しがた襲われ掛けたはずのその男に何の躊躇いも無く手を差し伸べる。無論、即座にトキの手が間に割り込んでそれを阻んだ。



「アンタ馬鹿か? たった今コイツに襲われそうになったばっかだろ」


「……そ、それはそうですけど、苦しそうですし……」


「……ハァ」



 平然とそんなことを言ってのける彼女に心底呆れ、トキは軽蔑すらしたかのような冷たい瞳をセシリアに向ける。その視線にびくりと肩を震わせ、彼女は口を閉ざした。



「……俺はアンタみたいな偽善者ぶる奴が一番嫌いなんだ。俺に付いてきたければ黙って俺のやり方を見てろ」


「……」


「おい、そういうわけで俺達は急いでる。さっさとロブ爺さんとやらの居場所を吐け」



 トキは未だに苦しみもがいている男を足蹴にし、低い声で威圧する。男は震え上がり、指先を東の方へ向けた。



「……あっちか」



 トキは男をその場に放置し、示された方角へと向かう。セシリアは暫しその場に立ち尽くしていたが、やがて戸惑いながらも男に頭を下げ、小走りで彼の後を追いかけて行った。



「トキさん、待ってください……!」


「早くしろ」



 トキは冷たく吐き捨て、彼女を待つ事もなくトタン屋根の古びた小屋の入口を叩いた。ドンドン! とけたたましい音で中に呼び掛けるが、反応はない。トキは苛立ったように舌を打つ。



「チッ、面倒だな。壊すか」


「え、ええっ!?」



 言うな否や、彼は短剣を鞘から抜き出し、柄を扉に向けた。そのまま大きく振りかぶり、古びた戸にそれを叩き付ける。


 ──バァン!!



「きゃあ!?」


「開いたな、行くぞ」



 いとも容易く戸が破壊され、トキは表情を崩す事もなく小屋の中へと踏み込んで行った。セシリアは急な展開に暫し言葉を失っていたが、結局は大人しく彼の後を付いていくことしか出来ない。



(……少し乱暴な人だけど……大丈夫かしら……)



 考え方がまるで違うトキの行動に幸先が不安になりながらも、セシリアはそっと手を合わせて神に祈り、彼に続いて小屋の中へと入って行った。




 4




 小屋の内部にはゴミが散乱し、悪臭が立ち込めていた。うっ、と眉間を寄せて鼻を摘みながら進めば、トキが誰かと話している声が耳に届く。



「……トキさん?」


「ああ、アンタか。見つけたぜ、ロブ爺さんとやらをな」



 彼はそう言い、近くの木箱に腰掛ける。よく見れば、その奥に一人の老人がひっそりと佇んでいた。



「……客人とは珍しいの。随分と乱暴な入り方だったようじゃが」


「す、すみません……いきなり押しかけてしまって……」


「細かいことはいい。そんな事よりアンタに用がある」



 ぺこぺこと謝るセシリアの声を遮り、トキは自身の首元を隠していたストールを手早く取り去った。露になった首筋の呪印に、老人──ロブ爺さんは一瞬目を見開く。



「……! そ、それは……!」


「……へえ、やっぱり何か知ってるらしいな」



 トキは冷静に呟き、足を組んで頬杖を付く。ロブ爺さんは彼の呪印をまじまじと見つめ、やがて溜息をこぼした。



「……成程な、魔女の呪いか。それでワシを訪ねたと」


「ああ、爺さんの割には話が早くて助かるね」


「ちょ、ちょっとトキさん……!」



 軽口を叩くトキをセシリアが静かに制止するが、彼は聞く耳を持たず淡々と言葉を続ける。



「俺はこのままだと二十四時間で死ぬ。だが俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ。アンタなら呪いを解く方法を知っていると聞いた。その方法を教えてくれ」


「……」



 ロブ爺さんは暫く黙って俯いていたが、やがてしわがれた声を絞り出した。



「……ワシは呪いの進行を遅らせる方法を知っているだけじゃ。完全な解き方は魔女しか知らん」


「……進行を遅らせる?」


「そうじゃ」



 ロブ爺さんは立ち上がり、ふとセシリアの顔をまじまじと見つめた。ぎくりと身を強張らせつつ、セシリアも恐る恐ると視線を返す。



「……あ、あの……」


「なるほど、こちらのお嬢さんがお前さんの呪いを一時的に緩和したようじゃな。光属性の魔法は魔女の闇魔法にとって唯一の弱点じゃからのう」


「……え、わ、分かるんですか?」


「まあな」



 ロブ爺さんは伸びきって汚れた髭を撫で、トキの呪印に視線を移す。



「じゃが、魔法では呪いの進行を長く止めておくことは出来ない。持って二~三時間というとこかの」


「……えっ、じゃあもうすぐまた発作が……!?」


「その言い方だと、魔法以外にも止める方法があるんだろ?」



 慌ただしく反応するセシリアとは対照的に、落ち着いた様子でトキは尋ねた。ロブ爺さんは頷き、再び簡素な椅子に腰掛ける。



「……お前さんは運がいい。光魔法が使える聖女様と一緒におるんじゃからな」


「……勿体ぶらずにさっさと教えろ、時間がないんだ」



 苛立ったようにトキが催促すれば、ロブ爺さんは「分かった分かった」と言葉を続けた。



「ちと、聖女様には酷な話なんじゃが……まあ呪いの進行を止める一番都合のいいやり方としては……」


「……」


を、定期的に摂取することじゃな」


「………………」



 ──光属性の体液。

 その単語が、何度かトキの頭の中に繰り返される。


 光属性の体液。

 光属性の体液。


 ……光属性の、体液を、する?



「……は?」



 暫しの沈黙の後、思わず間の抜けた声が出てしまった。──今何て言った? このジジイ。と今しがた放たれた発言を脳内で整理していると、こんな時ばかり冷静なセシリアがずいっと前に出る。



「光属性の体液って、つまり私のって事ですよね?」


「そうじゃな、お前さんがこの青年に体液を分けてやればよい。まあ、一日一回ぐらいで良いじゃろ」


「なるほど! 量はどのくらいですかね?」


「多いに越したことはないが、少しの量でも魔力は結構宿っているものじゃからな。多めに摂取すれば三日程度は持つはずじゃ」


「なるほどー!」



 おいおいおい待て待て待て、何を勝手に話を進めてやがる。“体液を摂取”って、アンタどういう意味かわかってんのか。

 嬉々として話を聞くセシリアに呆気に取られていると、その視線に気が付いたのか彼女はぱっと振り返った。



「よかったですね、トキさん!これで呪いの進行を遅らせることが出来ます!」


「……おい、アンタ本当に意味分かってんのか?」


「? 分かってますよ?」



 きょとん、と不思議そうに丸くなる翡翠の瞳。その目を柔らかく細め、彼女は続けた。



「大丈夫です! 心配しなくても、私が責任持って貴方を治しますから!」


「……いや、そうじゃなくて……」


「あ、すぐにでも治療した方がいいですよね。そろそろ魔法の効果が切れてしまいますし」


「……は!? ま、待て、ここでする気か!?」



 じりじりと近付いて来る彼女に身を強張らせると、セシリアは不思議そうに瞬いてちらりとロブ爺さんに視線を移す。──彼は、二人の様子をじっと見つめていた。



「……ああ、確かに……人前だと少しまずいですよね。場所を移動しましょうか」


「……い、いや……おい、」


「ロブお爺さん、ありがとうございました! 私達これで失礼します!」



 深々と頭を下げ、セシリアはトキの手を掴んで出口まで引っ張って行く。トキは未だに何かを言いたそうにしていたが、結局何の抵抗も出来ず外へと引っ張り出されてしまった。

 そんな二人をロブ爺さんは穏やかな表情で見つめ、独り言のように呟きを漏らす。



「若いっていいのぅ」



 それはゴミが散乱した小屋の中だけに木霊し、誰の耳に届くこともなくひっそりと消えていった。




 .

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