第14話 母の話
「…ここですよ。」
薫と美世子に連れられて、フィリップは咲の家の前まで来ていた。
フィリップは薫と美世子に礼を言って別れてからチャイムを鳴らした。だが誰も出ない。
ドアに触ると、家のドアは開いていた。
しかし、中に入ると不意に包丁を突きつけられた。
「来ると思ってたわよ。大泥棒さん。」
とっさに部屋の中を見渡すと、部屋の奥に椅子に縛り付けられた咲の姿があった。
「…そろそろ全てを話す時がきたみたいね。」
そう言って母は全てを打ち明けた。
「実は私も昔は女優を目指していたの。でも芸能界に入って初めて受けたオーディションはすぐに落ちた。」
「えっ…?」
「後できいた話だけど、そのオーディションは意味の無いオーディションだったの。役は既に事務所がそのドラマの関係者にどの位お金を出すかで決まっていたの。」
「そんな…」
「それだけじゃない、役を得るために監督に身体を売る人だっていた。芸能界ってのは演技力とか見た目の問題だけじゃない。結局はお金の問題だったのよ。」
「…」
「そこで私は咲…貴方のお父さんと結ばれた。でもあの男は咲が3歳の頃に他の女を作って出ていった。」
「!?」
「笑わせるわ。まさかその息子が案の定、泥棒だなんて。あなた達の関係は既に忘保ちゃんからきいているのよ。きいた時はびっくりしたけど。なんで私の娘があんなクズ男の息子なんかと泥棒なんかと付き合わなきゃいけないのよ?」
その時、包丁を突きつけられたフィリップが妙な事を言い出した。
「あのー…お母さん。特技があるんですけど見てもらえませんかね?」
「は?」
するとフィリップは急に包丁を突きつけられた喉を自分で切って、その場倒れそうになった。そして隠し持っていた拳銃で母を撃った。
「…なんてことを…!!」
母はその場に倒れた。
「見てもらえましたかね…?俺の…特技…うっ…」
フィリップもそのまま倒れた。
「そんな…どうして…駄目!!やめて、死なないで!!ねぇ死なないでってば!!お願い…」
咲は泣くしか無かった。ひたすら泣いていた。
しかしその時、
「バーカ。皮膚の表面切るだけで死ぬ訳ねえだろ…」
なんとフィリップ、もとい大介は死んでいたふりをしていただけだった。
「女優なら、こんな演技くらい見抜けなきゃ駄目じゃないか?」
「…」
咲は何も言えなかった。
そして二人は笑いながら、そして泣きながら抱き合った。
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