Episode 7 昼の少女

 ――朝が来ると、その少女は夢から目覚める。賑やかで明るく、しかし何処か孤独な世界に彼女は生きていた。


 昼間の少女は、快活でいつだって笑顔で、誰からも好かれるような、そんな子供だった。友達は多く、家族関係も良好で、側から見れば誰もが幸福な子だと思うだろう。

 しかしたくさんの友達の中には、本当に分かり合える者はいなかった。彼女は周りと少しずれていた――それは両親の厳格な教育によるものだった。過剰に厳しい家に生まれた彼女は流行りの物も持っていなかったし、玩具もあまり与えられなかった。必然的に、彼女は周りからあぶれていったのだ。

 良好に見えた家族関係は、実は軋んでいた。両親の期待を一身に背負った彼女は、幼い頃から優等生でいなければならなかった。さもないと酷い叱責を受けるのだ。


 それでも彼女は自身が幸せな子供だと信じていた。それは盲信の類だった。自分は幸福だと、縋るように信じていたのだ。


 奥底に隠れた彼女のその悲しみに気付く者はいない。彼女自身が、無意識に閉じ込めてしまったのだ――真っ暗な箱庭の中に。

 本当の彼女は自然を愛し、優しい歌を好む素朴な少女だ。夜闇に包まれ、朧げな光に安堵する箱庭の少女に出会ってから、ずっと他人のように振る舞っていた彼女だが、それが紛れもない自分自身だと薄々気が付いていた。二度目の来訪で、それは確信に変わった。夜に閉じ込められた少女は、自分が何者であるのか徐々に思い出しているように見えたのだ。

 彼女はそれを受け入れられなかった。だから自分の片割れである少女に、たくさん嘘を吐いた。本当は好きな色も花も天気もまるきり同じなのに違うものを答えたし、歌ったのはただ流行りなだけの歌だった。……彼女は本当に好きな歌は、歌わない。歌えなくなったのだ、いつからか。


 そして彼女は最後に、一番残酷な嘘を吐いたのだった。

「きっとまた歌が会いに来てくれるわ。それまで私は絶対にあなたを独りにしない」と。

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