第2話

だがそんなことはあり得ないのだ。なぜならたった今帰って来たばかりであるし、鍵もかかっていたのだ。気持ち悪い。もしかしたら今も部屋に見知らぬ誰かがいるのではないか。だが少し経って同居人の小夏を思い出した。もしかしたら小夏が部屋にいるのではないだろうか、そうだきっとそうだ。彼女はいたずら好きだからどこからか様子をうかがっているのではないかとあたりを見回して、線香の隣で利発そうに笑う彼女の写真が目に入って来たとき、彼女が1週間前に死んでいたことを思い出し、まだ小夏にすがっているのかと悲しくなった。

「小夏とは小学校6年生の時に出会った。いつも教室の隅で本を読んでいた彼女にどうしてか自分と同じものを感じて何の本を読んでいるのかと尋ねたのが出会いだったと私は覚えている。もしかしたら小夏には読書の邪魔をしてきた私がうっとおしかったかもしれないが。彼女は物事を深くまで考えることが好きで、私は彼女の考察を聞くことが好きだった。利害が一致していたという表現は少し違うかもしれないが私たちによく似合う言葉だと彼女はよく言った。高校、大学とバラバラの道へ進んだが、私たちは連絡を取り合って大学生になって2年が経ってから同居を始めた。彼女は春風のように暖かく、夏のように明るく艶やかで、紅葉のように色鮮やかで、木枯らしのように寂しげな人でした。私は彼女に恋をしていたのだと思います。今までのどんな感情とも違う、私は身勝手な人間です。ですから彼女がいなくてはこの世に生を残す意味などないのです。どんなに憧れた職につこうとも、喜びを感じようとも彼女がいなければ価値は全く無に等しいのです。

 ですから彼女が私を愛さない理由を知りたかった。体を切り開けばそこに愛があるのではないか、暖かな感情が見えるのではないかと思ったのです。

玄関のドアの向こう側が騒がしく感じられる。パトカーのサイレンの音、赤いライトが窓に差し込んでくる。複数の人間がドアの前にいるようだ。ここまで来て何も知らない男に邪魔をされるのはごめんだ、とドアの前まで素早く音を立てないように近づいて扉を開く。それから言うのだ彼女のように

「ごきげんよう。」

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