ホットミルク
五丁目三番地
第1話
エレベーターを出て歩く、ドアの前で鍵を刺して右に回す。少しの手ごたえとガチャリの音で部屋に入る許可が出たことを知る。
「ただいまー。」
いつもなら同居人からの返事が帰ってくるが今日は出かけているようだ。返ってこない挨拶をしてから靴を脱いで部屋に入る午後11時。
中学3年生の時からの夢だった中学校の英語の教員になって約一年が経った。
去年の今頃は毎日が勉強で、頭のどこかで上手く教員としてやっていけると思っていた自分の甘さに嫌気がさすほどに現実は厳しいものだった。
生徒に教えている最中にも、こんな教え方で板書を写していく彼らは理解できているのだろうか、私は間違ってはいないだろうかとしゃがみこんで耳をふさぎたくなる衝動を感じて心臓の鼓動がだんだんと早くなっていくのを感じていたが、慣れとは偉大なもので発作も少しずつ収まっていき、今は相変わらず楽しさを感じることばかりではないが少なくとも退屈ではなくなってきた。
靴下を脱いで洗濯機に入れてから足を水で流す。この真冬に足を冷水で洗い流すのは無数の冷たさが針となって肌を刺してくるような感覚を感じるがこのためだけにお湯をつけて少しの間だけだが待つのも面倒なのである。
タオルを引き出しから出して水滴をぬぐう。それからリビングに入って鞄をソファに向かって投げる。冷蔵庫を開けて酒と呼ぶには度数の低いジュースに似た飲み物を一番手前にあった味をつかんでプルタブを上に引っ張る。
スーツのままソファに座ってテレビをつけたときソファの前の丸い木製のテーブルにホットミルクが置かれていることに気が付いた。
目の前に置かれた白い液体からは湯気が立ち上り、たった今できたばかりの物のように見える。
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