第9話─親友

嘘だろ。驚く叶人の目の前には、龍我がいた。


僕よりも背丈が高く、何色にも染まらないような深い黒色の髪と瞳をしていて、痩せ型な彼は、僕の幼馴染の親友だ。


「えっ、龍我?」


「おう、その通り龍我だ。覚えていてくれたのか我が親友よ。

俺はとても嬉しい!」


龍我はギュッと僕を抱きしめた。痩せ型な為、一見力が無いよう見える。がしかし、彼は子供の頃、この都市で1番強いと称されたことがある。


「苦しい、苦しい、離してよ」


「すまんすまん、つい感激してしまった。突然、お前の父さんが移住すると言って、ド田舎

に行ってしまったじゃないか。


俺!凄く悲しかったよ。


それにしても、何年ぶりに再開しただろうか?


うーん、分からないが、とにかく俺は嬉しい

ー!」


龍我はもう1度、ギュッと抱きしめた。


昔と変わらないな。


「お、お前彼女つくったのか?くー羨ましいぜ!」


龍我がコノハの方に視線を向けた。


「違います!!」


コノハはキッパリと言い払った。かなり大きな声だった。


「叶人、ここに来たということは今日、雲休宿に泊まっていくんだろう。


特別に俺が受付をしてやろう。


俺は今日1日この宿の亭主だからな。あんな大行列には並びたくないだろう?」


「有難う!」


そう言った叶人はその場で、お金を取り出そうとした。


あ………しまった…………


お金、家に忘れてきた。


ヤバい、コノハにぶちギレされる。


せっかく親友に再開したのに、僕はどこまで不幸なんだ。


慌てて叶人は龍我を引っ張って、奥の部屋へと進んで行った。


「コノハはそこで待ってて。すぐ戻るから」


「あ、分かったわ」


コノハは小さく手を振った。




「おい、いきなり何するんだよ。

ひょっとして、さっき強く抱き締めすぎて怒っているのか?」


「いや、僕はそれくらいでは怒らないよ。


それより、龍我。僕は今所持金0円なんだよ。


だから、今夜1泊無料で泊まらせてくれ!


お願いだ! 」


「ふーん、なんだそんな事か。


それくらいいいに決まっているだろ。


俺たち親友なんだぞ!


あと、俺は今日、父さんの代わりにこの宿の亭

主を任されていて、明日には家に帰る。


明日からは、俺の家で泊まっていけ。所持金0円なら、宿なんて借りれないからな」


龍我は笑いながら、1つの鍵を叶人に渡した。


(なんて心の広いやつなんだ……)


やっぱり昔と同じだな。




「もー遅いよー!」


エントランスに戻ると、コノハが痺れを切らしていた。


「ごめん、ごめん」


「さっき、叶人と話していた男の人は誰なの?」


「僕の幼馴染の親友だよ。しかも、今回会おうとしていた人だ。


はい、これは今日泊まる部屋の鍵」


叶人はコノハに鍵を渡した。


「やったー!叶人の友人と会えたってことは、明日は歩かなくていいのよね。


今日は思う存分寝れるわ!」


コノハはその場で飛び上がって喜んだ。余程、歩くのが嫌なのだろう。


「さぁ、部屋へ行こう」


2人は真っ赤な松明が無数に続く廊下を歩いた。各部屋からは宿泊客の陽気な笑い声や鼾などが聞こえた。


さすが雲休宿。大繁盛だ。


カチャ


綺麗なドアを開けると、清潔感溢れる部屋が広がり、真っ白な布団が2つ置いてあった。


「あー、ようやく休める!」


すると、コノハはフカフカのベッドに勢いよくダイブして、そのまま寝落ちしてしまった。


(寝るの早すぎだろ)と思ったけど、考えてみると当たり前だ。普段、仙術に頼って、まともに体を使わない仙人がここまで歩いてきた事自体、凄いことなのだ。


「僕も寝るか」


その後、コノハに続いて僕も寝てしまった。





翌朝、叶人が目を覚ました時、宿がやけに騒がしかった。


「トン、トン」と、ドアをノックする音が聞こえて、開けると龍我が立っていた。


「大変なことになった。早く食堂に来てくれ!」


理由を聞こうとしたが、龍我は一目散に走って食堂の方へ行ってしまった。


「おい、起きろー」


「もう朝なの、早くない?」


コノハが寝ぼけて起き上がった瞬間、叶人は手を引っ張って食堂へ駆け込んだ。


食堂には大勢の宿泊客が群がっていて、1人の老人が何かを手に持って、テーブルの上に立ち、話をしている。


「皆の衆、よく聞け。これは簪なんじゃが、ただの簪じゃない。仙人が髪に突き刺しているものなんじゃ」


どこかで見たことのあるような気が…………


あ、ひょっとして…


「おい、あれってコノハのじゃ……」


コノハに視線を向けると、さっきまで眠そうにしていた彼女は、真剣な表情で老人を見つめていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る