第6話ー運命の扉

*白雲世界*


それは、天空人が仙人に手助けされて成り立つ世界。


仙人は神と象徴される故に、天空人と仙人は互いに決して触れてはならないという禁忌の掟がある。


そんな世界で、僕はある仙人の少女と出会ってしまった。



「叶人、朝食食べておくのよ。今日も、母さん仕事いってくるわね」


その言葉と同時に僕は目を覚ました。いつも通り、重いカーテンと厚い窓を開け、軽く涼し気な空気を狭い部屋に充満させる。

部屋を洗うといった感じだ。


「分かった、いってらっしゃい」


ガチャっ


ドアの閉まる音が、今日は妙に安心する。


布団から起き上がろうとすると、隣にはコノハがいた。


(あれ?こんなに可愛かっ・・・)


僕の視線は、そのスヤスヤと眠っている赤髪の彼女の美貌に目を奪われてしまい、気づいたら30分も経っていた。


やばい!こんな事してる場合じゃない。


「おーい、起きろー」


「んー、もう朝なの?」


コノハは目を擦りながら、ゆっくりと身を起こした。昨日から着ている貴族風の青色の服は、皺くちゃになっていた。


「じゃあ、顔洗ったら下においで。朝食の準備をしておくから」


「あっ、分かったわ」


トン、トン、トン、トン、


僕は早歩きで、階段を下りて行った。



最近は1人で起床して、1人で洗顔して、1人で朝食を取る。しかし、今日は僕以外に人がいる。それも、女子!


いつもと違う朝に多少の違和感を覚えるが、それでも嬉しかった。



(さて、朝食でも作るか)



僕の家は先祖代々続く木造建築の家で、何処か古い木の匂いがする。とても落ち着く匂いだ。


グツッグツッグツッ


いつもの様に、鋳型に鋳造された釜で野菜を熱してご飯を作る。顔に、生暖かい風が当たる。


「叶人、おはようございます」


振り向くと、洗顔したコノハが2階から降りてきた。簪で結んでいた髪の毛を下ろしたらしく、その容姿は、まるで別人のようだった。


「おはよう。朝食は、このテーブルの上にある物、 好きなだけ食べていいよ。全部野菜だけど……」


「私、野菜大好きですわ。ありがとうございます」


謎の会話を済ませたコノハは、黙々と朝食を取り始めた。


「なぁ、コノハ。これからどうするんだ?

ずっとここにいても、いずれ母親に見つかってしまうだろう」


コノハは一瞬躊躇った。


そして、少し口を閉じた後こう発言した。


「そうですね。私は、これから蓬莱山に戻るつもりです。

ここに堕とされてしまったけど、このまま恐ろしい企てを放っておくわけにも行きませんし」


すると、叶人は突然立ち上がり、 バンッ と力強くテーブルを叩いた。


そして、大声でこう言った。


「僕もついて行っていいか?

このままずっとこの都市で働いて、一生を終えるのは嫌なんだ。こんな退屈な日々から抜け出したいんだ。

蓬莱山まで一緒に旅をしよう、お願い!」


僕は、無意識に深く頭を下げた。


(こんな無謀なお願い承諾してくれるのか?)


ガサッ、ガサッ


前の方から、コノハが立ち上がる音が聞こてくる。


果たして、承諾してくれるのか。




「いいですよ。私も空雲都市については皆無だし、手伝ってくれるのなら、こちらとしても嬉しいわ」


まさかの即決!!!


「よっしゃ!じゃあ朝食を食べ終えたら、すぐ出発しよう」


「分かった。でも、ちゃんとご飯は食べましょう」


「了解、了解」


そう言うと、叶人はクローゼットから母親の服を持ってきた。もう叶人は、とっくに食事を済ましていた。


「この服を着れば、仙人と疑われることはないと思う」


「うん。それは名案ね」


コノハが微笑みながら頷く。


2人の間にはもう、昨日まであった巨大な壁はなくなっていた。




朝食を終えた2人は互いに身支度をして、玄関の前に身を置いた。


「ねぇ、叶人。これからの旅は決して楽な事ではないと思うの。多分、何十日、いや何百日、いや何 千日かかるわ。

覚悟は出来てるの?」


「あぁ、出来てるよ。最初は少し怖かったけど、今はむしろ、これからの旅が楽し

みすぎて、ワクワクしてるよ!」


「じゃあ行きましょうか」


「あぁ、長い旅の出発だ!」


2人は運命の扉を開けた。

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