第5話ー蒼い月

頭を猛スピードでフル回転させ、必死に記憶を呼び起こす。


「どうしたの?そんな難しい顔して。ひょっとして、話、長くて飽きちゃった?」


「そうだ、思い出した。コノハ、 去年開催された仙人大会って知ってるか?」


「えぇ、勿論知ってるわ」


「じゃあ質問するぞ。その大会では、大勢の天空人が亡くなったんだが、不思議なことに皆、仙命石を無くして亡くなったんだ。これについて、何か知っていることは無いか?仙人の君なら、何かわかると思うんだ」


「私は身分の低い仙人なので、そのような詳しい事は知りません」


「僕の父親は、仙人大会で亡くなったんだ。なぁ、少しでもいいから、気がかりになる事とかないか?」


気づいたら、僕はコノハの肩をぐっと掴み、コノハの意見を気にせず、真剣な表情で質問攻めをしていた。


「フゥーーー、しょうがないわね」


コノハはため息をついて、返時をしようとした。


その時、


「ガチャ」


ドアの音だ。


まずい、母親が帰ってきた。


2人は庭から家の中に飛び込み、叶人は慌ててコノハを自分の布団に入らせた。


「とりあえず、ここに隠れてて」


「分かった」


キーーーーーーー


母親が、部屋に入ってきた。


「叶人、帰ったわよ。あら、今日は夕食こんなに食べたの!?

貴方、少食なのに珍しいわね」


「あ、うん。凄くお腹すいちゃってさ」


「ふーん。あ、叶人! 貴方、全然野菜に水あげてないじゃない。仕事はさぼらないでよー」


「あー、ごめんなさい。明日、今日の分もまとめてやるから、許して」


「もー、しょうがないわね」


キーーーーーーー


母親との会話が無事終了して、僕ははそっと胸をなでおろした。


母親が帰ってきちゃったし、今日はコノハを泊まらせるか。それに、こんな寒い中、外に追い出すなんてかわいそうだ。


「コノハ、今日は泊まっていくか?もうこんなに暗いし」


気づくと、外は光り輝く半月と真っ暗な空だけになっていた。


「いいの?」


「あぁ、でも母親にはバレないようにしろよ。バレたら死刑だからな」


僕は部屋の灯りを消して、コノハの入っている布団に入った。


2人で一枚の布団に入るのは、少し狭いな。


「えーっと、貴方は叶人というんですか?貴方のお母様が言ってましたけど」


「そうだけど…


あれ、まだ自己紹介してなかったっけ」


「えぇ」


「じゃあ、簡単に自己紹介するぞ。


僕はこの空雲都市出身の18才で、母親と2人で暮らしている。


僕の家はごく普通の農家だから、毎日僕は水やり、母親は野菜配達をしている。好きな食べ物は、野菜全般。


今は亡き僕の父親は、冒険家で色々な空雲都市を旅していた。僕もそうなりたいけど、勇気がなくてね。


コノハも、自己紹介してよ」


「それでは、私も簡単に自己紹介します。


私は身分の低い下仙人で、年齢は自分でも分かりません。


仙人は不老不死なので、年齢という概念が存在しないのです。


私の仕事は情報伝達をする事で、白雲世界の様々な問題を身分の高い仙人に伝えるというものです」


「なるほど、だから仙人の恐ろしい企てが分かったのか」


「はい」


暗くて顔は見えないが、僕はコノハが小さくうなづいたの感じた。


「で、さっきの話の続きなんだが、仙人大会は恐ろしい企てと関係があるのか?」


叶人は先程の興奮していた気持ちを堪えて、冷静な口調で問いかけた。


しかし、コノハは返事をしなかった。


「また黙るのか…

なぁ、もう打ち解けたんだし、教えてくれないか?

さっきは、教えてくれそうな感じだったじゃないか」


「後悔はしませんか?」


コノハは静かな口調で問いかけた。重い一言だ。


「あぁ、勿論だ」


「では言いますね。

去年開催された仙人大会は、全くのデタラメです。

仙人になれるという建て前で、仙人の真の目的は仙命石を少しでも回収するというもの。

全ては恐ろしい企ての為。

これが真実です」


「それは本当なのか?」


「えぇ、真実よ」


「そんな……

じゃあ、父さんは……」


突然の悲報に、叶人は悲しい思いが込み上げてきて、数粒の涙を手の甲に垂らした。



昔から仙人は、学徳を兼ね備えた素晴らしい人だと思っていた。


そんな仙人になりたいと子供の頃から強く憧れていた。


その仙人に裏切られた。


大好きだった父親を殺された。


悲しい気持ちで満ち溢れている叶人を、コノハは静かな眼でじっと見つめていた。


何も言わず、ただただ見つめていた。



そして、夜が更けた頃、2人は蒼く光る月に照らされながら、深い眠りに落ちていった。


こうして、叶人の長い1日は幕を閉じた。



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