第3話─コノハ
「私は蓬莱山に住む仙人です」
「えっ………」
叶人は一瞬、ピタリと時間が止まった気がした。遥か昔から白雲世界の絶対掟として、仙人と天空人は一切の関係を禁じられている。話す事も、見ることでさえも……
もし見つかってしまったら、最悪処刑されてしまう。処刑なんて嫌だ!
僕は恐ろしさとあまりの驚きで頭がいっぱいになっていた。
ふと、目線を宙に上げてコノハを見てみると、彼女は何事も無かったかのように台所から食べ物を沢山取り出し、黙々と頬張っていた。
「君は本当に仙人なのか?」
僕は半信半疑の気持ちで問いかけた。
「えぇ、正真正銘仙人よ。
あーっ、思い切って言って良かった!スッキリしたわ! 」
「スッキリしたわ!っじゃねーよ。
何で仙人様が此処にいるんだよ?
見つかってしまったら処刑なんだぞ!」
「もう、そんなに怒らないの。私だって処刑は嫌よ。
私は、追放されて此処に堕ちたの」
「なるほど、道理でこの都市のものとは思えないほどの服を来ているわけだ。
んで、何で追放されたのか?
泥棒したのか?それとも万引きか?いやでも、仙人は盗みなんてしないか。とすると、殺人をしたのか? 」
「ぜーんぶ違います!私はただ仙命石を手に入れようとする企てを試みようとしている仙人に対して、反論しただけ。盗みなんてするわけないじゃない」
その瞬間、僕の脳裏にある悪い事が過ぎった。
一瞬、心臓が止まったような、そんな感覚。
「コノハ、今、仙命石って言ったよな。どういうことだ?」
「えっ……」
僕の問いかけに、コノハは何かを察したのか、気まずそうに下を向いて、また口篭ってしまった。
キュイーーー
ドアの開く音が、何故か悲しく聞こえる。
僕は気持ちを整理する為に庭へ出た。
庭へ出ると、冷たい風が顔に打ち付け、息を吐くと一瞬にして白い煙と化した。
辺りはもう随分暗くなってきて、神々しく輝く月は半分欠けていた。
僕は静まりかえった暗い庭で1人、考え事をし始めた。
………仙命石、それは僕たち天空人にとって命と同等、いや命よりも大切な物。青く輝く6角形のその石は、仙人の力が宿っているとされている。
僕が雲の上を歩くことの出来る事、掴むことが出来る事、雲を肥料として野菜を育てる事が出来事、全てが仙命石によって可能になっている。
そんな仙命石にまつわる事件が最近、かなり起こっている。
1つ目は、去年開かれた仙人大会。僕の父親が命を落とした大会に関する事だ。
参加者の1割が命を落とした大会だが、不思議な事にその全ての人が姿を消した。
つまり、仙命石を無くして亡くなったのだ。普通、天空人が亡くなった場合、仙命石を付けているから、雲の上で倒れている。
仙命石は命と同等なものである故に、簡単な衝撃では取れないように頑丈に見に付けている。
なのに、全ての人が仙命石を無くすなど、普通に考えてありえない。
2つ目は、最近この都市の者が、突如行方不明になる事件が多発している。大抵の場合は、無事見つかるのだが、見つからない場合も少なからずある。
こんなこと、今まで1度もなかった。
コノハの言葉が本当だとしたら、仙人がこれらの事件に関わっている事になる。
仙人様がそのようなことをされるのか?
考えれば考えるほど、疑問が増していく。
「あのー、少し話を聞いて貰えませんか?」
その瞬間、僕の視界に光が差し込んだ。
振り向くと、そこにはコノハが立っていた。頬には泡がポツリと付いている。
「あぁ、いいよ」
コノハは庭に出て、叶人の隣にそっと座った。光り輝く月を静かに眺めながら、彼女は言った。
「貴方は、仙命石がどうやって誕生したか、知っていますか?」
「いや、知らない。だけど、白雲世界世界の全ての天空人は、生まれた時に右手にそれを握っているという事は知ってる」
「なるほど、では今から説明しますね」
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