第2話─出会い
時は
カーテンを開くと青白い光が目の内に容赦なく入ってくる。
窓を開けると天然の空気と共に、真っ青な空と真っ白な雲、ずっと先まで立ち並んでいる木の柵、1番遠くには蓬莱山の山頂が少し見える。
「もう、朝なのか」
トットットットッ
食卓に行くと、一通の手紙と朝食が置いてある。
「なんだ、これ?」
まだ視界が完全に開いてない僕は、小さな手紙を手に取り、字の列をボーっと眺めていった。
手紙には「叶人、今日は夜遅いから、夕食は自分で作って食べるのよ。母より」と書かれていた。
「今日も、いないのか」
僕は母と2人で暮らしている。父親は去年開催された仙人修行に参加して、事故死してしまった。
この事故は、父親が身に付けていた仙命石が嵌められた指輪が物凄い風の衝撃で吹き飛ばされてしまったというものである。
その悲惨な事故の後、母は家計の為に朝から晩まで仕事をするようになった。
その為、僕は家事を担当するようになった。
皿洗い、夕食作り、野菜作り、水あげ・・・
無意味な仕事を、たんたん淡々とこなしていく。
実に楽しくない。
僕は野菜定食を食べ終わると、家の庭にある野菜に水を与えに行った。
ドアを開けると、そこには雲に埋まった野菜がずらりと並んでいる。
この膨大な量の野菜1つ1つ丁寧に水をあげていく、この作業を毎日するのが僕の仕事だ。
さっきも言ったが、正直とーーってもつまらない。
「僕は大きくなったら、仙人になるんだ」
と小さい頃の僕はよく言っていた。仙人という神に憧れていた。
だが父を失ってから、その夢は捨てた。
去年から始まった仙人修行は、参加希望者が様々な過酷なことに挑戦し、最後まで残ったものが仙人として、蓬莱山の仙人から正式に認められるというものだ。
しかし去年の仙人修行は最後まで残ったものは1人もいなく、死亡者が全体の約1割だった。
さらに、結局、仙人になった人はいなかったらしい。
そんな怪しく危険な事はしたくない。
でも、今の仕事を毎日毎日することも嫌だ。
そして、いつもの様に
「やっぱり、仙人になってみようかなー」と、
1人事をする。
あー、実に退屈だ。
少し日が暖かくなった頃、僕はうたたねをし始めた。
この退屈な世界、無意味な世界から逃避する為に。
「ドーーーーーーーン」
「な、なんだ。何事だ!?」
突然、遠くの方から、重く鈍い音が鳴り響いた。
僕は一目散にそこへ走っていった。
理由はない。ただ一心不乱に。
タッタッタッ
音が発生した方へ着くと、そこには1人の少女がうつ伏せに倒れていた。
透き通った赤い髪の少女だ。
全身に多くの擦り傷があり、気絶している。
「これは大変だ。直ぐに手当しないと」
急いで少女を家までおぶっていき、家で擦り傷の手当をして、布団で寝かせた。
まだ、意識はない。
少しして少女の姿をよく見てみると、見たことの無いような綺麗な服を着ていて、手には1冊の書物を握っていた。
「基仙書、なんだこれ?」
僕は少女が握っていた基仙書という書物を、そーっと手に取ろうとした。
と、その時
「あれ、私は…… ここは何処?」
「おっ、目を覚ましたか。ここは僕の家だよ。
君が野菜畑で倒れていたから、家で手当したんだよ。はい、これ飲む?」
叶人は自家製の野菜スープを少女に与えた。
「あ、どうもありがとう 」
少女は勢いよくスープを飲み干した。余程空腹だったのだろう。
「あのー、えっと、君は一体何者なんだい?
見に纏まとっている服だって、この都市のものでは無いだろう?」
「私はコノハ。何者かは教えられないの
わざわざ助けてもらったのにごめんなさい」
そう言うとコノハは口篭くちごもってしまった。
「うーん、誰にも言わないから教えてくれないか?」
「すみません。 どうしても言えないことなの」
そう言うと、また口篭もってしまった。
「じゃあ、満腹になるまで飯食べていいから、その交換条件として教えてくれないか?
さっきから、ずっとお腹鳴っているぞ」
コノハは赤面した。
そして、下を俯きながら、静かにこう言った。
「絶対に他の者に話さないと約束してくれます?」
「あぁ、勿論だ」
そう言うと、コノハは深呼吸して言った。
「私は、蓬莱山に住む仙人です」
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