習作 此処
少女は、見も知らぬ場所で目を覚ました。
そこは、夢の中のような場所だった。
そこには、深い悲しみが降り積もっていた。
辺りはとても寒いはずなのに、春の早朝のような温もりがじんわりと、彼女を内側から融かしてゆく。
立ち上がり、空を見た。
夜明け前の空は少し欠けた月の光と調和し、仄かに彼女を照らす。彼女は、光の射す方向へゆっくりと歩き始めた。
少し歩くと、川、そして橋がみえてくる。
その脇にひとの姿を認め、彼女は歩をはやめる。地面は足でつかんでもすり抜け、微かな向かい風が彼女を分解していく。
「こんにちは、お嬢さん」
人影がこちらに振り向いてしゃべりかける。その背後からはすでに太陽が昇っているようで、顔はのっぺらぼうのように何も見えない。
真っ白な身体は、何か纏っているのだろうかと、彼女は考える。
「ここは、どこですか」
恐る恐る彼女は尋ねた。
すると、どこか機械音のようにも聞こえる声がまた、返答を紡ぐ。
「この場所は何処でもないし、何処でもある。貴方は私であるし、そして私も貴方。永遠に降り積もる雪は私、わたしたちの感情。
なにもかもは風によって移ろい、儚く散ってゆく。誰しもが想いながらも、誰しもがわすれていったもの。
朝日はいのちの輝きを映し出す。夕暮れには底なしの根源が浮かび上がる。
ここはなにものをももたらし、そしてなにもあたえない。
なにものも祝福されず、そしてなにも循環しない。
絶え間なく移ろい変わり続けるからこそ、ただただ不変であり続ける」
人影はゆっくりと胸の前に手を伸ばす。
その手に降り積もった雪をふっと吹くと、途端に世界は混ざり合い、ぎゅっとちぢまって、まっしろな景色は移り変わった。
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