4-2
日々は、続いていく。
三段リーグは、年に二回ある。新しい戦いが、また始まるのだ。
僕がこうしてプロになるために戦っている一方で、武藤さんは大活躍していた。多くの棋戦で勝ち進み、今のところ勝率が三位である。
また、福田さんもすさまじく強かった。若手同士の対局では負け知らず、タイトル挑戦まであと一歩のところまで行っている。
将棋とネタの両立。二人は、それができているのだ。
その一方で、美鉾は相変わらずパソコンに近づかず、投稿の数も減っていた。将棋から離れたわけではない。武藤さんに借りた資料に目を通している姿はよく見るけれど、どうにも元気がないように見える。
学校で何かあったのかもしれない。けれども、妹は何も言ってくれない。ああ、兄としてどうすればいいのだ。
そして、一か月が過ぎて。僕は、なんと開幕から4連勝していた。武藤さんや福田さんも相変わらず活躍している。
美鉾は、一週間つぶやいていなかった。
スマホが鳴った。電話だ。なんと、福田さんからだった。
「はい」
「美鉾ちゃんはいる?」
「はい。いますよ。かわりましょうか?」
「いい。DM返ってこなかったし、電話も出ない」
「えっ」
「つぶやきもないでしょ。寝込んだりしてるのかなと思って」
「いや……病気とかでは。ちょっと調子が悪いんだと思います」
「そっか。そういうときもあるよね。でも、美鉾ちゃんがタイムラインにいないと寂しいから。待ってるって伝えといて」
「はい、わかりました」
電話を切る。そう、美鉾は僕の目の前にいても、他の人にとっては「消えている」のだ。それまで元気に毎日つぶやいていた人が、いなくなる。それは、怖いことかもしれない。
タイムラインを見てみる。今日も、みんな元気だ。動画サイトで、プロ棋士がキャンプをしながら将棋をするという「野営王戦」が行われており、それについての話題で盛り上がっていた。
そんな企画があることすら忘れていた。そうだ、美鉾がいるから将棋を「楽しむ」気持ちになっていたのだ。今の僕にとって、将棋は苦しい。もちろん楽しんで指すことはできるけれど、このままプロになれなかったら、自分の力を出し切れなかったらと思うと胸が痛くなる。
みんなのつぶやきを見ると、夕食休憩になって「火をおこし始めた」らしい。
〈八段働いてる。休憩じゃないじゃんw〉
〈バーベ休憩中〉
〈キノコ狩りから帰ってきていないスタッフが〉
みんな楽しそうだ。今、中継を見れば僕も楽しめるだろう。
けれども僕は、スマホを置いて、将棋盤に向かった。
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