#4 ネタ将でないことを証明する
4-1
〈おはようございます。今日は学校のテストです。国語は得意ですが、古文はちょっと苦手です。 刃菜子〉
あっという間にフォロワーが増えていくアカウント。福田さんの、公式なアカウントである。
美鉾が間違われないようにするため、彼女は自らこのアカウントを作ると言ってくれた。いたって普通のことしか言わないが、ネタ将以外はネタ投稿がないことをそれほど気にしていないようである。
ネタ将活動の方は以前通り、元のアカウントで行っている。さすが最年少女流棋士、だんだんとコツをつかんできているようだった。
だが、今日の僕はずっとタイムラインを追っているわけにはいかない。というか、中身が頭に入ってこない。
三段リーグ最終日。ここまでの成績は、9勝7敗。残りは2局。勝ち越していた。今日1勝でもすれば勝ち越しだ。
来期のことも考えれば、もちろん2つ勝ちたい。ただ、とにかく勝ち越しという結果を残すことは、とても大きな意味があると思う。
神社の横を抜けていく。神頼みはしないと、決めたのだ。
へとへとになって、帰宅する。余力が残っていない中、歩くのもかなり疲れた。
「ただいま」
返事がない。部屋に入る。誰もいない。
僕がいないということは、パソコンが使い放題なのだ。それなのにいないということは、出かけているのだろうか。
「美鉾、いないのか」
リビングにもいない。美鉾の部屋をノックする。
「……兄様?」
「いたのか。入っていいか?」
「はい」
美鉾は、『将棋宇宙』を読んでいた。いや、本は開いているけれど、目が動いていなかった。ぼんやりと、眺めている。
「どうしたんだ。体調悪いのか?」
「そんなこと、ないですよ」
「そっか。あのさ、僕、駄目だったよ」
美鉾の目が、初めてこちらに向けられた。赤い。
「残念でした……でも、一番いい成績ですよね」
「うん。負け越さなかったのは初めて。次は勝ち越して、その次は一番になる。っていう計画」
僕の目は、きっともう赤くない。だから大丈夫だ。けれども美鉾は、全然大丈夫じゃない。
「兄様は、頑張りました。きっと、四段になれます」
「ありがとう。美鉾は、何があったんだ」
ちらりと、右斜め下に視線が注がれた。スマホが充電されていた。
「私には、何も。ただちょっと、もっと頑張らないといけないと思って」
「何を頑張るんだ」
「全部です。全部頑張らないと」
「……そっか。兄さん今日はもう疲れたから寝るよ。パソコン使いたかったら、使って」
「はい。ありがとうございます」
部屋を出る。年頃の女の子に、悩みごとがあるのは普通のことだろう。すぐに僕に解決できることなんて、そんなにないだろう。何より、心身共にとても疲れている。今は悪手を指しかねない。
自分の部屋に戻り、ベッドに飛び込んだ。思ったよりは、眠くならなかった。
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