3-5

 我が家に、再び武藤さんがやってきた。それだけではない、なんと福田さんも来ている。

 話は、少し前にさかのぼる。

「これ、福田さんですよね」

 連盟で顔を見かけたので、ここぞとばかりに僕は福田さんに声をかけた。スマホには、この前見つけたアカウントのプロフィールページが。

「そうよ」

 なぜか、堂々と答える福田さん。ちょっとびっくりだ。

「え、あの……」

「恐れ入った? 私すでに、一日三回以上つぶやいているのよ」

 福田さんは、胸をそらす。

「あんたにはわからないでしょうね。私、すでにネタ将としてかなり活躍しているわ!」

 スマホを操作して、別のページを表示させ、再び福田さんに見せる。

「なんなの今度は」

「この人のツイート、250リツイートされているんです。ネタ将界のレジェンドです」

「え……」

「僕も30リツイートぐらいされました。妹も20ぐらい」

 まあ、僕のネタを考えたのも美鉾だけれど。

「妹、妹がいるのあんた?! いやそれより、どういうこと、なんでみんなそんなリツイートされたりするの?」

「将棋と……ネタに、愛があるからじゃないでしょうか」

 なんとなく、それっぽいことを言う。

「愛……私、ネタ将の何もわかってなかったというの……」

「諦めてくれませんか。ネタ将の道は、険しいです。福田さんは普通の女流棋士のアカウントとして……」

 福田さんが、突然腰を九十度に曲げて頭を下げた。

「こんなところで諦めるわけないでしょう! 私にネタ将の心得を教えな……教えてください!」

「へ」

「あんたの妹にも、ご指導ご鞭撻願う……ます!」

「え……ええ?」

 パニックだ。ネタ将というのはなぜこんなにも女の子たちを虜にするのだろう。そして、僕に指導できることはほとんどない。

 そんなわけで、武藤先生の出番である。ひょっとしたら将来伝説になるかもしれない、「ネタ将研究会」、略してネタ研が、開かれることとなったのである。

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