3-4
わからない。
広大なネットの海から、一人の人を探し出すのがこんなにも難しいのか。どれが福田さんのアカウントなのか、ちっともわからなかった。
ただ、性格的にあそこまで言って始めていないとは思えない。どうしたものか。
「そういう時は撒き餌だな」
僕は、万策尽き果てて武藤さんに電話した。
「まきえ?」
「福田さんに出てきてもらうんだ。俺が協力しようか」
「え、どうやって」
「まあ、たぶんいけるよ」
それから約一時間。タイムラインにとんでもないお題が投下された。先日の大盤操作をする僕の写真とともに、「#加島三段が実は悩んでいること」というハッシュタグがそえられて。
「な、なんだこれは……」
最近でこそ奨励会員も注目されるようになったが、大喜利のお題になったところは見かけたことがない。しかも三段リーグで負け越していて、話題になることもない僕が、である。
予想通り、反応は鈍い。ただ、全くないわけではなかった。写真の端に、絶妙に福田さんの手が映っており、それに気づいた福田ファンが動き出したのである。
〈やっぱり福田さんかわいいなあ〉
〈駒を渡すときに手が触れないかなあ〉
大体そんな感じである。プロでもない人間をネタにするのは……と言っている人もいて、優しさに感謝である。しかしこれは、ほかならぬ加島三段が加担しているのです、ごめんなさい……
そう、おそらく仕掛け人は武藤さんなのだ。作戦の詳細まではわからないけれど。
〈早く福田さんと対戦できる位置まで行かなければ〉
ん、と思った。なんか他と感じが違う。そのアカウントを見てみる。〈おはようございます〉〈今から出かけます〉〈空がきれいです〉と、普段は普通のことしかつぶやいていない。そしてたまにネタっぽいことを言ったりハッシュタグに参加しているのだが、ひねりがなく、なんか普通なのである。普通という意味では浮いている、とも言える。
そして。今回のお題に限って、投稿されたネタのほぼすべてをお気に入りにしていた。何かにとりつかれたようである。
これは?
着信音が鳴った。武藤さんからだ。
「もしもし。やっぱりこれ、武藤さんなんですね」
「あはは。刃菜子ちゃんなら乗ってくると思って。まあ、そもそもあのアカウントだと目星はつけていたし」
「えっ、そんなことが可能なんですか」
「君とはキャリアが違うのだよ。でもまあ、ちゃんと確認したかったし」
「なるほど……」
「で、こっからどうするの」
「え?」
「アカウントがわかったからって、『この人実は福田さんです!』って指摘するの? それはひどくない?」
「まあ、確かに。でも、美鉾が疑われたままだと困るんです。だから、ちゃんと福田さんに打ち明けて、相談しようと思います」
「おお、さすが兄様」
そう、避けて通れない道は、進むしかないのである。
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