3-3
「私、ネタ将になりたいんですぅ」
思わず、飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
タイトル戦一日目の生中継。今日の聞き手は福田さん。午後になり指し手の進まないまったりとした時間になり、雑談が行われていたところだった。
画面上は、「ねたしょう?」「ネタ将か!」「なんで目指すんだよw」といったコメントであふれかえっていた。
「公言するとは……」
正直福田さんのことを侮っていた。ああは言っても、実態を知ったら諦めるのではないかと思っていたのだ。
タイムラインも、一気にこの話題であふれかえる。なんと言っても、プロから「ネタ将」という言葉が出るだけでも画期的だし、しかも目指すとまで言っているのである。
そして数時間後、事態はさらに進展した。
「兄様、大変です!」
「おお、どうした」
美鉾が部屋に駆け込んでくるのも恒例になってきた。
「私のことを、女流棋士と勘違いする人たちが!」
「ええっ」
「リプライやDMを送ってくる人まで……」
タイムラインを確認する。すると確かに、〈そういえば自称女子中学生の子がいなかったっけ〉〈言われてみると、本物っぽいところもあったよな〉〈あれ、福田さんじゃね?〉〈言われてみると、将棋の歴史とか勉強してたな。福田さんも最近昔の雑誌読んでるとか言ってた〉といった投稿が。
「どうしましょう」
「うーん、いい状況じゃないなあ。まあ、変なリプライやDMを送ってくる人は速攻ブロックだ」
「いいんでしょうか」
「良い環境は創り上げていくものだ! と武藤先生が言ってた」
「わかりました!」
しかし、疑惑を晴らすために美鉾が正体を明かすのはリスクがある。そうなると、今より変な人が絡んでくる可能性もある。兄としてきっちりと妹を守らなければならない。
「そうか」
「どうしたんですか」
「もう一方の本物がわかればいいのか」
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