2-6
違うジャンルの写真を強引に結びつけるというのは将棋に限らずよくあるお題で、一度はやり始めると大きなうねりとなる。最初は本当に「似た構図のもの」があげられるだけだったのが、次第に様々な角度からの切込みがなされるのである。
「すごい勢いが出てきましたね……」
「さすが将棋とサッカー。やはり親和性が高い」
「でも、みんな何でこんなに素早く写真をあげられるのでしょうか」
「うーん、よく見てみると、途中から二枚同時にあげてるよね。多分面白い棋士の写真があって、そこから逆算してイタリア代表の写真を探してるんだ」
「なるほど! ああ、私もサッカーのことが少しでも分かれば……」
両方の拳を握っている。美鉾は心底悔しそうだった。
「知らなくたって何とかなるさ。美鉾、将棋の写真はすでにいっぱいあるんだろ。今から、サッカーの方は見つければいい」
「……うん、やってみます」
美鉾にパソコンを譲る。勝つためには勝負を始めなければならない。小さい頃、道場で教えてもらった言葉だ。今こそ美鉾には、さらなる一歩を踏み出してほしい。
「あれ……この人も代表なんですか?」
画面では、スーツ姿のダンディな男性が叫んでいた。
「これは監督だ。試合中スーツ派の監督って多いんだよ」
「知りませんでした……。あ、じゃあ……」
美鉾は、「将棋ネタフォルダ(写真)」を開いた。多くの写真がずらっと並んでいる。
「確か……ありました!」
「おお」
そこには、サッカーのユニフォーム姿で将棋を指すプロ棋士の姿が。確か、フットサルと対局を交互に行うというぶっ飛んだ企画の時のものだ。
「これを組み合わせれば……」
「なるほど」
普通はスーツはスーツ、ユニフォームはユニフォームで合わせる、と考えるところだ。だけど美鉾は、「普段とは違う」ということで、サッカーだけどスーツ、将棋だけどユニフォームという「合わせ方」を狙っているようだった。
「うーん、うーん、なんかいけそうなんです……」
三分ぐらい、様々な写真を開いては閉じて、を繰り返していた。その横顔は、彫刻を掘り出す芸術家のようだ、と思った。
「決めました」
「よし、頑張れ」
ついに、美鉾は写真二枚に、タグを添えて投稿した。
沈黙が訪れる。張り詰めた空気。
画面左上のベルが、光る。通知欄だ。つぶやきがリツイートやお気に入りされると、ここに数字が示される。
二分ほどたって。
「リツイート……されました!」
「よかったな」
妹の、肩を叩く。そう、苦手なことも踏み込んでみれば、上手くいくことがあるのだ。
「どんどん通知が……10リツイート、5お気に入り……20リツイートです! 新記録……」
「良かったな……ん?」
何かの違和感があった。モニターを凝視する。ブラウザの様子が映された、いつもと変わり映えのしない画面だ。代り映えがしないって……
「美鉾、お前、アカウント切り替えてないぞ」
「えっ……?」
「この投稿、兄さんのアカウントでされてる」
「……っ……えーーーっ!!」
なんということだ。このスマッシュヒットネタは、美鉾のものとしてではなく、僕のものとして世間に発信されてしまったのだ。
「うっかりだな……兄さんも将棋でよくやるよ。でもまあ、お前のネタが受けたことに変わりはないから、自信を持てよ」
「その、えーと、えー……?? 正しい感情がよくわかりません……」
「あ……リストに入れられた」
そんなわけで、僕のアカウントの方が、「ネタ将」として認識されることになってしまったのであった。
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