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 以前武藤さんと話したときに、こんなことを言っていた。

「ああ、俺生中継とかに普通にコメントしてるよ」

「そうなんですか」

「将棋棋士である前に、将棋ファンだからね。四十年分ぐらい『将棋宇宙』そろえてるし、ウィークリー将棋も、愛好家の方に譲ってもらったりコピーさせてもらったり」

「すごいですね」

「将棋の世界は奥深いよ。どこまでいっても楽しめて、限界がない。ファンも、盛り上げ方がうまいしね。たまに混ざって楽しんでるよ」

「武藤さん、ある意味最強の将棋ファンですね」

「いいねー、そういうタイトルないかな」

 その時はまだ「ネタ将」という言葉を知らなかったけれど、美鉾の様子を見ていて、真っ先に思い出したのが武藤さんだったのだ。

「ミホコちゃんは、将棋を楽しんでるんでしょ?」

「はい……でも、私、目標があるんです。だから、もっともっと将棋を楽しんで、いっぱい知識を貯めて、皆さんと盛り上がれる存在になりたいんです!」

「うーん、自然とそうなるんじゃないかなあ。楽しいことは、楽しいんだよね。楽しもう楽しもうとすると、楽しくなくなっちゃうよ。だから、将棋が楽しくなくなった人は、いったんやめましょう、って俺は言うよ」

「そうですね……そうですよね……。でも私、憧れがあるんです。いつだってみんなを楽しませて、面白くて輝いていて、キラキラしたものになりたいんです。初めて自分自身で夢を持ったから……だから、そのためには何でもしたいんです!」

「はは、それこそアイドルの話みたいだね。絶対にウサミミは外したくない、みたいな」

「そう、そういうことです!」

「なおさら、自分で見つけるしかないんじゃないかなあ。もちろん俺もいろいろ聞いたけど、最後は自分のしたいことをしたっていうか。でも、プロ棋士になるため、って考えたら違うのかもね。色々聞いて、試して、我慢して続けて。ミホコちゃんの目標は、そういうものなのかな?」

「わかりません……考えれば考えるほど、わからなくなるんです」

 美鉾は、ぐっとこぶしを握って、目を見開いた。

「ネタ将って、何なんでしょうか?」

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