2-2

 神……武藤四段が家に来てくれた。以前から研究会をしないかという話はあり、では一度うちで一対一で、ということになったのだ。

 19歳、新四段の武藤ただし四段は、朗らかでサービス精神があり、人気が日に日に上昇している棋士である。ちなみに三段リーグでは一回も勝てていない。

 そして、今回も負けた。

「ここでこうされるとどうかな?」

「いやあ、手が伸びなかったです」

 感想戦でも全然及んでいない。まだまだである。

「ところで武藤さん、お願いしたいことがあるんです」

「ん、何かな」

「妹が最近将棋に興味持って。武藤先生、会ってもらえませんか?」

「もちろんもちろん。へー、加島君って妹いたんだ」

 美鉾を呼びに、部屋を出た。居間で、目をつぶって正座していた。

「どうした」

「神の邪魔をしないように、精神集中していました」

「……ん? まあいいや、会ってくれるってよ」

「ふ、ふぁい!」

 びし、と立ち上がる妹。体ががちがちに固まっているのが見ていてわかる。

「行かないのか?」

「待ってください。脳からの命令が渋滞しています」

「あんまり待たせるわけにも」

「うーん、うーん、美鉾、行きます!」

 がちゃん、がちゃんと、美鉾は動き始めた。人は神に会うとき、こうなってしまうのか。

「連れてきましたー」

「初めまして、武藤です」

 立ち上がって、お辞儀をする武藤さん。美鉾は、頭をぐいん、と90度曲げた。

「カシマミホコデス!」

「ミホコちゃん、よろしく。将棋好きなんだって?」

「は、はい。その、先生のこと、崇拝しています」

「崇拝?」

 面と向かって言う人は初めて見た。僕は、美鉾の背中を叩いた。

「落ち着いて。武藤さん、びっくりしてるよ」

「あ、いや、その、すみません。その、武藤先生はブログとか面白いですし、解説もすごいですし、動画も作ったりして、あの、プロデューサーということもうかがってますし」

「あれ、ミホコちゃんもやってるの?」

「はい!」

 二人は、「アイドルを育成するリズムゲーム」の話で盛り上がっていた。僕はさっぱりわからない。

 打ち解けたところで、美鉾は改まって頭を下げた。

「あの、それで先生、一つ聞きたいことが……」

「なにかな。俺に答えられることなら」

「先生のように将棋を楽しむ、コツを教えてください」

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