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まずは何より、見てみないことに始まらない。僕は、SNSのアカウントをとることにした。
今ではプロ棋士のみならず奨励会員や観戦記者など、多くの人々がSNSでつぶやいている。ただ、僕は今まで興味がなかったのだ。
恥ずかしいので、本名とは関係ない名前にする。おすすめされるままに有名人を何人かフォローして、これで完成だ。さて、ここからどうするか。そもそもネタ将というのは、どういうアカウントで展開されているものなのか。なによりまず、美鉾を見つけなければ。
「あーっ」
「どうした」
僕がコンビニに行くときでも待っているのか、部屋の中でまったりとしていた美鉾が突然声をあげた。スマホを凝視している。
「お兄様、この局面、勝負はまだまだですか」
差し出された画面には、中継中の局面が。
「まだ駒もぶつかってないね。順位戦だし、しばらくはスローペースだろうね」
「時間は……7時20分。警戒です」
「け、けいかい?」
「今日は他の対局が早指で、4時過ぎには終わっています。残された一局は、まったり中。こういう時に、大喜利は始まりやすいんです」
「ほ、ほう」
「見ておかないと、気付いたら終わっていた、ということもあり得ます。しっかりTLを確認しておかないと……」
「美鉾は、もうネタ将として活動しているのか?」
妹は、しばらく動きを止めた。
「……まだ」
「そうなのか。こんなに準備しているのに」
「まだ、フォロワーが少ないんです。それに、投稿も全然で。突然ネタだけをつぶやくアカウントは、怪しいでしょう」
「そういうものかなあ」
「ある程度キャラクターが浸透して、フォロワーも増えて、そんな中でつぶやくとリツイートやお気に入りしてもらいやすいんです。そこは、研究済みです」
「あのさ」
昔のことを、思い出す。そう、将棋を始めた頃もそうだった。お父さんにもお兄ちゃんにも負けたくない、ちゃんと研究してから、他の人に勝てるようになってら勝負する。美鉾はそう言っていたのだ。
「お兄様?」
「最初は誰だって初心者なんだ。いきなり100リツイートされる人なんていないんだろ? 実戦なしで強くなる人はいないよ。チャンスが来たら、踏み出してみたら?」
「そうは言いますけど……」
「ネタ将の輪の中はいる、それが楽しくなくちゃ続けられないだろ。というか、それが楽しみなんじゃないのか」
「……はい。わかりました、私、踏み出してみます」
「その意気その意気」
兄らしいことを言ってあげられただろうか。美鉾は、何度も確かめるように頷いている。
「……ああっ」
「今度はどうした」
「始まるかもしれません」
再び、スマホの画面を見せられる。SNSのTLが、表示されていた。投稿の中の一つを、美鉾は指さしていた。
そこに書かれていたのは、〈 # 棋士のしていそうな副業 〉というものだった。
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