第4話 幻想の追いすがる時

 都市での生活には金が要る。金の為には働かねばならぬ。

幸いにしてか不幸にしてか、人類圏においては慢性的な人手不足が久しい。

食い詰めた流民、逸民、異種族その他諸々を飲み込む都市と言う怪物は常に貪欲で

片っ端に貪りつくす先から次の供物を求めるという次第である。


 で、あればこそ。冒険者なる実に胡乱な連中が生存できる余地があるという訳であった。

その一人である少女──リーアは郵便鞄を襷に掛けて街路を朝から駆けずり回っていた。


「ええと、次は。何処?ああ、また訳の分からん宛名が……」


 手に握りしめた手紙に目を落とすと訳の分からない事が書かれている。

曰く、何某辻の誰彼屋号ののっぽらしい。全く当てにならない字面にふざけているのだろうとしか思えないが、

そもそも無計画に街区を拡大し続けた結果、皇都の住所、所番地自体が酷くいい加減な代物である。

まがりなりにも仕事が進んでいるのは先の主人による仕分けと、余りの意味不明ぶりに助けを求めた先のエメスが

簡単な地図と、その解説をしたお陰だ。


 成程。然るべき伝手が無ければ手紙一つ届かない訳だ、と実地で得心しつつ。

リーアはまたも一見のあばら家に声を掛ける。そこから出てくるのはみすぼらしい姿恰好の輩だ。

事情を説明し、葉書を手渡して次の配達先に向かう。その繰り返しである。

太陽が中天から傾き始め、鞄の中身が僅かになって来た頃であった。

手にした一通の手紙に目を落とす。


「んー……次は。ロヴォ?ロボ=ジェホータン?ジェヴォーダンって人か」


 判別に労する筆で書かれたボロボロの紙片には、そうあった。

伏された住所は穴倉の底、とでも言いたいかの如く入り組んだ路地裏の、そのまたどん詰まりらしい。

うへぇ、とリーアの口から思わず呻きが漏れた。

表の辻、目貫通りは兎も角も一歩でも裏通りに足を踏み入れたが最後、整備だのという言葉は存在しない。

何処からか流れ込んだ水やら、投げ捨てられたゴミ、汚物が混じり合った悪臭放つ沼というのが実態である。

時折、粘液質の何かがごぼごぼと泡を拭きながら音を立てているのは深く考えないにしても、

少女にとってみれば危険な迷宮に足を踏み入れるが如しである。そして実際に危険である事も間違いはない。

案の定、というべきか。所書きと地図が指し示す場所へ目を向ければ、昼なお薄暗い裏路地の彼方。

踝程もあろう汚泥の沼が延々と続いている。


「ん?」

「わひゃい!?」


 二の足を踏んで思案するリーアの背後から、男の声がした。

思わず飛びずさって振り返ると、まだ暑さも残るというに全身黒装束という奇怪な風体をした男が立っていた。

その顔は逆光で良く認める事が出来なかったが、目ばかりが嫌に鋭い。


「お嬢ちゃん、どうしたい。ここいらは危ねぇぞ?足元も滑るし」


 髭をさすりながら言う男から少女は数歩後ずさった。

間抜けな悲鳴を上げた気恥ずかしさもあり、睨みつけるリーアを黒い男はじろじろと観察している。


「ひょっとして裏路地に入る気か?悪い事ぁ言わんから止めとけ。

何ぞ怪しげな人間に鉢合わせしても困るだろう」

「し、仕事で用があるのよ」


 怪しい人間が正しい物言いをしていた。釈然としないが、仕事はやらねば終わらない。

ひょい、と男が前触れも無く距離を詰めた。


「この先にゃボロ屋と掃きだめしかねぇぞ。誰だこんな所に手紙寄越したアホはよ。──ちょい見せろ」


 反論する暇も身をよじる時間もない。何の抵抗もなくリーアから手紙をひったくり、

しかし男は宛名と差出人を眺めて不愉快そうに顔を歪めた。

黒い帽子を跳ね上げるように蓬髪を掻き毟り、それから手紙を懐に収める。


「何すんのよ!?アンタのじゃないでしょ!!」

「いや、俺宛てのだ。ロボ=ジェヴォーダンって書いてあんだろ?」


 のらりくらり掴みかかるリーアを躱しながら黒づくめの男は言った。

いい加減斧の一つでも抜き出そうかと思っていたリーアは、肩で息をしながら怒声を吐く。


「何を根拠に!アンタがその人だって証明できないじゃないの」

「どっちみち辿り着けず捨てちまうのが関の山だぜ?

いいか、お葉書なんてもんは誰だろうと一度渡しちまえばそれ迄よ。

誰が手間かけて配達の有無を確認するかね。証拠の一つもねぇんだぞ」

「何ていい加減な……」

「食い下がるか。ひょっとして真面目か?ハイそれまでよ、ドロンじゃ不服ってかい」

「当たり前でしょ!仕事なのよ、返してよ!」

「そう言われてもナ。返せねぇもんは返せねぇンだよ」


 いい加減、少女相手に踊るのにも飽きたらしかった。男は地面を蹴って跳躍する。

腰を沈めたようにも、膝を曲げたようにも見て取れなかったが浮かぶように宙を舞うと

男は猿か何かのように路地の両側に聳えるあばら家の庇の上に乗っていた。

呆気に取られたリーアの手が、宙を掴みかけた姿のままで止まっている。

「じゃあな。急の予定が入っちまった」という一言を残して黒い男の姿はそれからすぐに見えなくなった。 


「魔物?……いや、まさか。何だったのよ、一体」


 ぼこりぼこりと沼が不気味げにガスを吐く音ばかりが残る。

自分は何か不気味なものと出会ったんだろうか、などと思いはするが無論答えはない。

幽霊か亡霊かそれとも魔物の類か何かか。考えてみれば黒づくめなどと如何にもな姿恰好と来る。

街の路地裏から現れた悪魔か何かか、愚にもつかない想像ばかりが駆け巡っていた。

ぶるり、と身震い一つ。鞄を抱えて逃げるように駆けだしていた。


 この世界には、魔物と呼ばれる存在が在る。

一言で言えば人間ではなく、動物でもない存在を全般を表す単語だ。

あれも魔物、これも魔物、何彼構わず乱暴に呼び続けた結果の極めて混沌とした概念である。

さて、そういう混沌があらば自然と形を与えたくなると言うのが人間という生き物である。

物好きな三人組が作り上げた問題に対する仮の答えを魔物生態辞典。そして、その編纂を行う機関こそは──


 ウォル=ピットベッカーは、一つの街区を切り取ったかのような皇都の一角の更に一隅に、

石造りの壁と巨大な門扉を備える館──魔物生態研究所、という建物の前に居た。

門衛に要件を伝え、一枚の紙を示す。ややあって、奥から現れた若い男が冒険者を内に通し、

一つの部屋へと導いた。掛かった札には簡潔に編纂室、とある。

扉を潜る。すると、待ち構えたように貴族然とした男が椅子に腰かけていた。

向き直り、僅かに驚いたような顔を浮かべると微笑を浮かべ、モノクルを正す。


「ふむ──君か」

「ウォル=ピットベッカーと申します。アーキィ伯爵、しがない冒険者に時間を割いて頂いた事に感謝を」

「いや、構わん。そう恭しいのもよしてくれ。入ってくれていい。

久方ぶりに君と会ってみたかったというのもあるし──あの直情漢がまだ生き残っていたとは驚きだよ」


 僅かに口元を堅く歪ませる冒険者に頓着せず、伯爵は言葉を続けた。


「危うく殺されかけてから幾星霜。時が経つのは早いものだ」

「そんな事もありましたね」

「そんな事、とはご挨拶だね。まぁ、ウォル君も相変わらずで結構な事だ。

お互い今の立場もある。ああ、そうそう。ハロウド君も会いたがっていたよ。

生憎今日は不在だけれどね。──おっと済まない。影響かな、つい話が長くなってしまう」

「そうですか。アイツも──まぁ、ハロウドの奴はそんなに変わってないんでしょう」

「その通りさ。この通り、図らずも一つの機関と伝来の位を預かる羽目になり君は今を時めく腕利きの冒険者。

だというに彼だけは今日も世界を飛び回っている。ま、ハロウドは死ぬまで変わらんだろう。

最近は色々と忙しいようだがね。まぁ、それは私も同じことだが──」


 近くにあった椅子にアーキィはちらりと目をやる。

どれもこれも貴族が使う物とも思えない実用本位の代物であった。

大海のような紙束や積まれた書物の傍らに無造作に置かれている。

ウォルは立ち尽くしたまま、じっとアーキィを薄く見据えていた。


「適当に掛けてくれ。何か飲み物を持ってこさせよう。それとも酒の方がいいかね」

「あの騒動の生き残り、それが貴方と僕だ」


 人を呼ぼうとしたアーキィを遮るようにウォルが言を投げる。

振り向いた怪訝な顔に構わず冒険者は続けた。静かに、一つ一つの言葉を丁寧に折りたたんで。


「もう一度言おう。白い月の龍に関わった生き残りがウォル=ピットベッカーとトゥルシィ=アーキィだ。

──絶対にシラは切らせんぞ。貴様の尻尾を掴むのに十年以上かかったんだからな」


 答えず、伯爵は皺の寄った眉間を指で押さえ思案を始める。

僅かな沈黙があった。静寂に耐え、ウォル=ピットベッカーは佇んでいる。

幾たりか数え切れぬ夜は深く溝を刻んでいるらしかった。


「西国の耳に入れば君、殺されかねんぞ?生き残りはいない事にするだろうよ」

「手間が省けて丁度いい。僕はあの国が大嫌いでね」

「成程。全く変わりがないのは君もか──人払いをした方がいいね」

「お願いします」


 かつて、酷い時代があった。無数の生命が失われ、数多の土地と財産が灰燼に帰した。

確かな原因は今もって不明。ただ、三つあった月の一つが突如として失われて後、それは始まった。

その凶兆に引き続いて起きたのは、凡そ地上のあらゆる場所における生命の発育不全と不毛化。

結果は凡そ類例を見ない規模の飢餓、それに伴う戦乱と疫病である。

僅かの食物を奪い合い、生存をかけて互いに殺し合う殺伐とした時代。

記録にあるだけでも皇都の三分の一が無人の廃墟と化した惨状は、冒険者たちにとっても忘れ得ぬ出来事だ。

──そして、白い月は今も天に戻ってはいない。つまりは、まだ解決などしていないのだ。


 手ずから茶を入れ、応接室に戻って来た伯爵は去った日々を思い返しつつ、椅子に腰かけた。

余りいい思い出があるとも言えないが、それでも消し去る事などできはしない。


「後、半年続いていたら人類圏は共食いで瓦解していただろう。実に運がよかった」


 よくよく人間というのは悪運が強い、と何処か悲しげにアーキィが言う。


「……で、どこまで知っている?」

「大した事は。現地の文献は焼かれて失われたし、あの土地自体が未だ人間が立ち入れないような状態だ。

ヘタに足を踏み入れれば三日と立たず狂死するような魔境に人を送る訳にもいかない。

だから、私たちの辞典に書いてある以上の事は何も解っていない、というのが率直な答えだよ。

それでも、大陸中の人類圏で知られている限りではここ以上に君の求める所が得られる場所もないだろうね」

「よく言う。昔からそうだ。もう、ある程度どうしてああなったかは推察出来てるんだろう。

ただ、今はそれをいう状況にない、と判断してるだけでな」

「その通り。全ては状況証拠と微かな手掛かりから飛躍した、空想や絵空事に等しい想像の産物だ。

だから、今はまだそれを言う状況には──おっと、そう殺気立たないでくれよ。

言うべき状況には無いが──協力したくない訳ではない。かつての仲間にね。

だが、今は話せない。学者はいい加減な言葉を言う訳にいかんのさ」


 世界は広く、過去はどこまでも追いすがって来る。

そこに生者の理屈は存在せず、時と場合などまるで弁えもしない。

そいつは伯爵の首筋に手を伸ばし、冒険者の胸中に煮えたぎる泥を注ぎ込む。

ウォルは猜疑に満ちた、煌々とちらつく埋め火の眼を思案する学者へと向けていた。


「貴様が皇国の手先として、あの場所を焼いた事をまさか忘れたとでも。

なぁ、従者を引き連れて来たんだろう。知っているぞ。その上でまだ話さないと言うか」

「……このままだとまた同じことの繰り返しになるねぇ。それを断ち切りたかった、だから来たんだろう。

幾ら君が怒りを燃やそうが──私も黙って斬られてやる訳にはいかない身だ。

それなら、この話もここまでだ。好きにし給え。止めはしないよ」

「──了解した。ああ、解ったとも」


 絞り出すような、呻くような声で冒険者は言う。

あれから少しばかり年を取ったせいに違いあるまい。


「承った訳ではないらしい」

「言の真贋は行いつつ確かめる。それだけだ」

「宜しい宜しい。今はそれで大変結構。これまでの話はここまでにして、これからの話をしようじゃないか。

ウォル、君は一体全体何をしたい。復讐か。欲望か。それともまた別の物かか──何を望んでいるのか。聞かせてくれ」


 ウォル=ピットベッカーは片目を苛立たしげに瞑り、乱暴に赤い髪を掻く。大きく息を吸い込み、それから吐き出した。


「トゥルシィ、解ってるんだろう。冒険者一人じゃ十年かかって、ここ止まりだったんだよ。それが真実さ」

「結構、ならばシンプルだ。当研究所も手が足りているとはいい難いのでね。冒険者らしく仕事の話と行こうじゃないか」


 伯爵は肩をすくめてそう言った。


 ウォル=ピットベッカーは結局、館の宿坊に留まる事になった。

学者と言えば、話を詰める前にやる事があると言った切り自室に籠ったままである。

一日二日で結論が決まる事もあるまいと構えては居るが、さりとて無為徒食という訳にもいかない。

第一、まだ約定の一つもないのだ。今、宿を宛がわれているのは単純に伯爵の厚意である。

つまりは、例によって例のごとく、不安定な立場という訳だ。

不要な荷物を部屋の隅に纏めると、ウォルは館内を歩き回る事に決めた。

構造の把握の為であり、いざと言う時の経路把握の為でもある。

幸運の故か、誰何する者もなく知り合いにも出くわさない。


 やがて、壁と本館に区切られた僅かばかりの空間に出た。

かつては中庭だったようにも見えるが、特に利用されるでもなく二、三の木箱だの雑物が短い丈の草叢に紛れて転がっている。

その内の一つに腰かけて、冒険者は天を仰いだ。


 ──私の判断は、果たして本当に正しいだろうか。

見えぬ月に問いを借りる。未踏を進もうにも、鈍い頭は確りとした答えを返しもしない。

学者の言に恐らく偽りはない。少なくとも、そう信ずるには足りるだろう。

であれば、積み上げるべきは調査と分析という訳だ。

筋道は蜘蛛の糸のように細い。だが、宿願の為に雲を掴まねばならん。

ならば成すべし。冒険者は胸を座らせる。


 暗夜に一陣、風が吹いた。


「よう、ン十年ぶりだな。元気してたか」


 沈思を遮る声。黒い男が、何時かと同じ姿で立っていた。

風が過去を運んで来たらしい。冒険者の目は驚愕に見開かれていた。

身構え、立ち上がる。一方の黒服はウォルの様子に苦笑していた。


「魔物か、幽霊か、物の怪か。それとも遂に狂ってしまったか」

「久しぶりだってのにご挨拶だな。なぁに、お前があんましトロいから、

俺が態々来てやった、ってだけの話だ」


 死人が黄泉返るにもそれなりの理屈というものがある。

時処位を弁えぬというのであれば、妄想か狂気の産物と判断して差支えはなかろう。

切れば解る。目の前の存在が仮にもあの男のフリをすると言うならば。

重い物が空を裂く音。ウォルは懐に隠した飛剣を投げ放つ。

紐付けされた鏢は、然し二本共々羽虫のように夜のような男に叩き落とされた。

成程、幽霊でないならば強力な魔物か何かだろう。


「何のつもりだ」

「相変わらず頭の悪ぃ。言ったろう、個人的なお節介だよ」


 反論を言いかけたウォルの頭の真横を鋭い貫手が貫く。

半歩程もずれて居れば顔面に大穴が空いていただろう。

余波で皮の裂けた頬から血が伝っていた。


「これでも幽霊か。ええ?」

「──死んだ筈だろう。軍勢に飲み込まれて」

「死体は確かめたか。虚実の判別はどうだ。真贋を見極めず走っただけじゃねぇのか」

「第一、お前はあの時も、今と同じ姿だったろう。なら、お前は一体何だというんだ」


 記憶の中にある黒い男の姿は、五十程の男だ。何より、あの出来事はもう20年以上前になる。

切り抜けていたとしても死亡するか、少なくとも引退していなければ道理にあわない。

何より、全く年を取っていない。容貌など、記憶する限り当時のままだ。

男は貫手を納めると、ぶらり歩いてウォルから離れる。そいつはウォルの後ろの一点を見つめた。


「ま、いい。些細な事さ。──おっと」

「お邪魔だったかね。入館にはアポイントを取って欲しいものなのだが」

「いやなに。俺みたいなのは然るべき時然るべき場所に現れて遅すぎもしなければ早すぎもしないからな。

アポイントだのなんだのと、まだるっこしい事はしてられんのよ」

「成程、君が現れるには必然があっての事と言いたいのか」

「そういう決まり事だからな。仕方がねぇのさ、学者先生」


 トゥルシィ=アーキィであった。黒い男は冗談めかしてちぐはぐな台詞を言う。

嘆息してアーキィは目を細める。


「一つ、疑問に対する仮定を置くとしよう。熱を加えれば火が点るように。

水が流れれば海原へと注ぐように。海原が魚を孕み、波を生み出し、ただそこに在る様に。

在るべくして在ると主張し、実際にそこに存在する。この発言が事実であったとしよう。

成程、人では無く、魔物でもなく、幽霊でも無く、実体もある。

俄かには信じがたいが、否定する証拠がない限り仮の事実とせざるを得ない。

そして何よりも興味深いのはそういう存在がウォル君に関わりがあったという事。

さて、これは単なる駄法螺か、それとも壮大な真実の一欠けらか。

仮説に仮説を積み上げて、そうかもしれない理屈を組み立てて見たくなるね」


 学者は朗々と言葉を紡ぐ。その目は黒い男を射すくめてその奥底までも見通そうとしているかのようだ。


「チ、要らん事を言い過ぎたか」

「の、割には嬉しそうに見える」

「たりめーだろ、俺ぁ、単なる個人的なお節介で来たんだからよ」

「単なる善意か、それとも何かの策略か。

ともあれ、人類の手の者でもなく、魔物達でも無く、勇者連中でも賢者連でもない。

手の見えない連中が介入している、かもしれない。実に面白く陰謀論めいてきたじゃないか。

お節介ついでに教えてくれないか黒い人。君は一体何者だ。或は一体何が介入しているのかね。

人か、国か、人でなしか、魔物か、悪魔かそれとも神々か。私に興を添えて呉れ」


 学者の長広舌に髭面は帽子を目深にかぶり、口を歪めた。


「知りたきゃ秘密を当ててみな!」


 その一言を捨て台詞に、現れた時と同様、黒い男は夜に溶けてあっという間に居なくなった。



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