第2話 篠塚家のバレンタイン

その① 【誠に勝手ながら2/14休業致します。たかしの店主】


鷹史「……よし。」


常連・鬼頭「よし。じゃねぇよ、チョコ関係ねぇだろ、色気づくなや割烹屋」

常連・厳蔵「前日から貼り紙って……あの、明日は本当にお休みなんです?」


鷹史「……おじさんたち。見て、日本語。明日のこと、読んで!」


▼ 張り紙を指さす、たかしの店主


鬼頭「“誠に勝手ながら2/14、”」

厳蔵「“休業致します。”」

鬼頭・厳蔵「“たかしの店主”」


鷹史「……そ。じゃあそんな訳で、本日もありがとございました。閉店ガラガラ~」


鬼頭・厳蔵「さよなら~」



▼ 雪降る2月13日、深夜

  割烹 たかしの『本日の営業終了』。




その② 【でも帰らない常連たち】


暖簾をしまう鷹史「ん。……なに?」


鬼頭「鷹史、一軒付き合わねぇ?」

厳蔵「Σ先輩、駄目ですよ」

鬼頭「明日休むんだろ? おっと、ゴリラは帰って構わんぜ」

厳蔵「Σふたりだけだと危ないんで、尚更駄目です」


鷹史「……見て」


鬼頭・厳蔵「?」


鷹史「雪降ってるよ……積もり始めてら。今夜は無理だわ」


鬼頭「雪なんか……」


鷹史「朝、忍が起きるじゃん。お外に雪が積もってて……あの子、はしゃいで喜んで、俺に知らせようと起こしに来てくれる。だのに……俺、酒臭くてグッタリしてたら最悪じゃん」


鬼頭・厳蔵「あ~💡」


▼ 安易に想像できる常連ふたり


鬼頭「つぅか今更ねぇだろ、幻想妄想。いい加減子離れしろや。もう中坊だろ、忍」

厳蔵「忍くんも中学生か、早いな~」

鬼頭「フッ……ゴリラは中年なw」

厳蔵「Σアンタのほうが年上だ!」


鷹史「おじさんたち。醜い言い争いは……やめて。ご近所迷惑だから」


鬼頭・厳蔵「申し訳ない」


鷹史「最近の忍が、タカシを見る目ぇ……ねぇ分かる? なんかゴミを見るような目なんだよ」


鬼頭「あー確かに、年々荒れてくるよな鷹史のミテクレ。全体的に」

厳蔵「Σでも今でも、これからも、ズット綺麗デスヨ」

鬼頭「ゴリラ。鷹史をしっかり見て、言ってやれ」

厳蔵「デスヨ(泳ぐ目)」


鷹史「ウソ。Σまじで俺そんなやばい? タカシ想定外っ」


鬼頭・厳蔵「帰ろ帰ろ……(逃)」


鷹史「待っておじさんたち。タカシちょっと、サービスする」


鬼頭・厳蔵「お?」


鷹史「久しぶりに、身だしなみ整えちゃうから……飲み行こう♡」


鬼頭・厳蔵「おお~⁉」



▼ からの小一時間経過



(((鬼頭「凍えるわ! せめて中で待たせろや」)))

(((厳蔵「先輩。帰ってくれて構いませんよ……あれ、湯気?」)))


(((鬼頭「は? 湯気!? 鷹史のボケ風呂入ってんのかッ 誘ってんのかーッ」)))

(((厳蔵「風呂、入りて―――――――――――――――――――――――ッ」)))


(((鬼頭「もう帰るかッ つぅか銭湯行くかッ 俺ァ寒いの苦手なんだよ!」)))

(((厳蔵「どうぞどうぞ、たまにはお先にどうぞ帰って下さいよ!」)))


▼ 凍える憐れな中年たち。

 いっぽう、篠塚家浴室からは、ご機嫌な鼻歌が聞こえてくる♪


(((鬼頭「今日という今日こそは、誘ってんだなァァァ……鷹史の野郎ッ!」)))

(((厳蔵「Σ先輩ィィィ! 特攻だけはやめて下さい!」)))




その③ 【バレンタイン前夜の奇跡】


久々綺麗な鷹史「お待たせ~飲もうか~鬼頭さんの・お・ご・り・で★」


ひょっこり藤田の父「わーい鬼頭くん、ご馳走さまね!」


鬼頭「Σギャア、どっから湧いて出やがった藤田奇太郎ッ」

厳蔵「いましたいました、この藤田のおじさん。実は最初から」


鷹史「飲もうぜぇ、奇太郎★ 奇太郎ぅ~ほんとカワイイ★」

藤田父「ふにゃ?」

鷹史「奇太郎のぉ、そのクソダサ丸メガネ、油性マジックで落書きしちゃう~★」

藤田父「Σやめて~」

鷹史「鬼頭さん、とりあえず1000円渡しとく~……使わなかったら絶対返して★」


▼ 鷹史はとりあえずの壱千円カンパした


鷹史「おらよっ★」


▼ 壱千円を、鬼頭のおでこに貼りつけた


鬼頭「ウェッ……なに俺」

厳蔵「どうしました?」

鬼頭「鷹史はいいとして……ゴリラだろ、あとこの藤田のオッサンのぶんまで払うの?」

厳蔵「あはは。自分、しがない公務員なんで……先輩、ゴチになります!」

鬼頭「ちょ…っと、カネ下ろして来ていい?」

厳蔵「勿論っす!」


▼ そして夜は更けていく~💸




その④ 【早朝の受難】


♡。 ハッピーバレンタイン 。♡


忍 「……う゛」


酔っ払った鷹史「しのぶぅ~。ただいま♡」

忍 「……すっごい、臭い」

鷹史「妙齢の鷹史に臭いとかいうなぁ~♡」

忍 「臭いよ!」

鷹史「冷たいしのぶ、ほっぺも冷たい~!」

忍 「Σえ、なに⁉」


▼ 鷹史の酒臭いちゅう


忍 「Σおじさん、ほんとやめて!」

鷹史「ヤめない~♪」

忍 「ヤダって、こどもじゃないんだから!」


飛び起きたツナ「にゃ⁉」


鷹史「あ、ツナ~♡」

忍 「ツナ、逃げて……」

鷹史「忍、ツナ、忍、ツニャ♡」

忍 「なんなの!」

ツナ「ギニャア!」

鷹史「いやどっちも好き。タカシ選べない♡」

忍 「今日の酔い方、酷すぎる」

鷹史「Σそうなんだよッ!」

忍 「誰? たかしのの客に、無理やり飲まされたの?」

鷹史「そんな変な客、たかしのには、いませーん!」

忍 「昔はいっぱい、いたじゃん」

鷹史「もういないよ。ねえ忍、窓の外……雪だよーッ♡(バフッ)」


▼ 起き上がって、走って、壁に激突する鷹史


忍 「Σ鷹史―――――ッ!!」




その⑤ 【お医者さんがお見舞いに来ました】


正座する鬼頭「本当に、申し訳ないと思ってる」


忍 「ナンデこんなになるまで飲ませるの?」

鷹史「ZZZzzz(爆睡中)」

忍 「おじさん、限界突破しちゃったよ」

鬼頭「息抜きを……というか。近所づきあいというか……」

忍 「……。」

鬼頭「お大事にして下さい」

忍 「はい」


鬼頭にすり寄るツナ「にゃあ」

鬼頭「猫、すまん。撤収する」

超、残念がるツナ「にゃあぁ」




その⑥ 【高校教師がお見舞いに来ました】


正座する厳蔵「鷹史さん、大丈夫です?」


忍 「だめですね」

鷹史「ZZZzzz(もっと爆睡中)」

忍 「今日、店が休みで良かったです」

厳蔵「本当は忍くんと過ごすつもりだったみたいで……まあその、えー」

忍 「……」

厳蔵「鷹史さん起きたら、宜しくお伝え下さい」

忍 「……はい」


厳蔵「スポーツドリンク、胃薬、あとツナくんのおやつ」

お見送りするツナ「フンニャ!」

厳蔵「あれ? このおやつじゃあ、不満だったかな?」

おやつの袋をガン見するツナ「にゃ!」


▼ ビーフジャーキー(人間用)


厳蔵「Σ厳蔵、恐縮の極み!」

ツナ「ごんぞう、ばかにゃw」




その⑦ 【藤田の襲来】


♪ ピンポーン


忍 「また誰か来た」

忍の膝でごろごろするツナ「にゃあ」


♪ ピピン ポーン


忍 「ん?」

不安がるツナ「にゃに」


♪ ピンピンピンピンピン ポーン


忍 「藤田だね」

ツナ「ギニャ!」


▼ ツナ逃亡




その⑧ 【藤田が遊びに来ました】


藤田「しのちゃーん! 生きてる?」

藤田父「忍くん、だいじょうぶ?」


忍「いや……ダメなのうちのおじさん。ノビてるよ」


藤田「そうなの? 父さん、鷹史くんだった!」

藤田父「ふにゃそうなの? 鷹史くんごめんねぇ」


忍「昨夜は、藤田父も一緒だったんじゃないの? 飲み会」


藤田「父さん? ……ん?」

藤田父「ふにゃ?」

藤田「父さん……きのうって、お仕事だったんじゃないの?」

藤田父「ふにゃ!」


忍「たかしの営業後に、常連さんと飲みに出たんでしょ」


藤田「ええ」

藤田父「あわわ……えーと、えと、ウン」

藤田「そうなんだー ……父さん」

藤田父「は、はじめちゃん! このことは、ままには、ままには!」

藤田「父さん、また僕らをないがしろにしたんだねー」

藤田父「Σは、はじめちゃん!」

藤田「しのちゃんごめんね。ふじたはおうちへ帰らせていただきます」


忍「そうだね」


藤田「父さんは、思う存分ふらふらしてきてよー」

藤田父「そそそんな、はじめちゃぁん! ぱぱも帰らないと」


忍「奇太郎さん。帰る前に、溜まりに溜まった【たかしの】飲食代、お支払い頂けますか」


藤田「父さん。なにそれ」

藤田父「Σう、ウン! つ、ツケだね!」

藤田「父さん。ふじたのおとこ気、みせてくれるよね」

藤田父「えーと、えーと、えーと…… ウッ」


▼ 藤田父、死んだふり


藤田「はじめは、がっかりです」


忍「奇太郎さん。このまま何時間でも篠塚家は、お待ちます」


▼ 藤田父、もっと死んだふり




その⑨ 【鷹史の目覚め】


――鷹史。


 あぁ……。

 ついに迎えに来てくれたんだ、・・・

 逢いたかった、やっと逢えた、・・・

 俺、頑張ったでしょ。

 忍が成人するまではって、がむしゃらにやってきたけど、

 もう寿命なんだね。

 ねぇ、逢いたかった、・・・


――鷹史。


 今、渡る。

 そっちの岸は、夕暮れ?

 あの頃みたいで、凄く綺麗。

 ねぇ、・・・



忍 「鷹史!」


鷹史「Σハイ! ふぇ?」

忍 「良かった。うなされてたから、心配で」

鷹史「待って、ここはどこ」

忍 「篠塚家だけど」

鷹史「オマエ、誰?」

忍 「え、しのぶ……です」

鷹史「忍のほうか……、チッ」

忍 「?」

鷹史「アブネー! 偲び川を渡っちまうところだったわ」

忍 「え、大丈夫ですか?」

鷹史「今日って、まだ14日?」

忍 「はい、大丈夫ですか?」

鷹史「今は、何時?」

忍 「16時半近いです。大丈夫ですか?」

鷹史「チョコを……食べて」

忍 「チョコ?」


藤田「やっほー 鷹史くん。チョコならもう食べてるよー」


▼ ――ん?


飛び起きる鷹史「Σ何だってェ!?」




その⑩ 【バレンタインおめでとお!】


鷹史「昨夜さぁ。酔ったついでにコンビニ寄って、買い占めちまったチョコ郡で~す★」


▼ 市販のチョコ袋どっさり


忍 「だいぶ酔ってたんですね。立ち寄られたコンビニも迷惑だったと思います」

藤田「わーい。イチゴ味うれしー」

忍 「うわ……イチゴ(トラウマ)」

藤田「あまーい。しあわせー」

忍 「よかったね、藤田」

藤田「うーん。しのちゃんち、だいすきー」

忍 「そうだ、藤田奇太郎さんから飲食代を回収しときました」


鷹史「ン ハイ?」


忍 「藤田が一度自宅に戻って、藤田母を呼んで来てくれたんです」

藤田「うちの父さんね、妙子さんと帰りましたー」

忍 「凄い光景だった。うちの玄関の靴とか、花瓶とか、浮いてたよね?」

藤田「妙子さん怒るとちょっとねー」


鷹史「え、ちょっと待って……奇太郎って? うちに来てた?」


忍 「鬼頭先生、厳蔵さん、昨夜のダメンバーみんなお見舞いに来ました」

藤田「藤田もです!」


鷹史「見舞い……って?」


忍 「憶えてない? おじさん、明け方に帰ってきて、酔っ払って壁に大激突したんだよ」

藤田「わおー」


鷹史「え何それ、……こわっ」


忍 「で、そのまま気絶するように寝ちゃったんです」

藤田「いのちあってよかったねー」


鷹史「ええ~ごめんね忍。ご褒美に♡ちゅう♡してあげよっか」


忍 「 いらない (ぷいっ)」


鷹史「あれ……なんか、デジャビュな?」


忍「 なんのことだろうね (////)」


藤田「あっ! しのちゃん鷹史くん、そろそろだってー」

忍 「え、なにが?」

鷹史「は、なにが?」


藤田「外、呼んでるよー」


▼ 突然、外へ飛び出してった藤田


忍 「ちょ、藤田……!」

鷹史「うおい、デカイ声だすな……頭に響くし~」


▼ 藤田を追って玄関出てく、鷹史と忍



――篠塚家・玄関前――


雪まみれの鬼頭「お。出てきた」

雪まみれの厳蔵「篠塚さーん!」

雪まみれの藤田「しのちゃんたかしくーん」


三人「ごめいわく、おかけしましたー!」


お詫びの印の、巨大雪だるま⛄


(作・鬼頭精一郎&山形厳蔵)


鷹史「ありがと~(邪魔くせ~)」

忍 「あ、ありがとう////(おっきい)」


藤田「ではここで藤田、うたいまー…


▼ 全力で取り押さえられる藤田


鬼頭「ほんとヤメロ」

厳蔵「藤田は帰って勉強しろ!」


藤田「しょっく」


鷹史「そんなことより、大量のコンビニチョコだよ。どすっかな」

忍 「食べるにも限界があるよたかし……」

鷹史「ねぇ、しのちゃん。俺もよく知らないんだけど、チョコフォンデュでもしちゃう?」

忍 「チョコフォン……デユ?」

鷹史「ナゥいやつ、くだものにとろけるチョコを、こうつけて」

忍 「くだもの……は、ぱす」

鷹史「ガーン!」

忍 「普通に食べようよ、チョコ」

鷹史「ハーイそうね。じゃ寒いし、中戻ろっか」

忍 「そうですね」


▼ がららと閉じられる、篠塚家の玄関戸


鬼頭「さむー……こんなもんだな現実」

厳蔵「帰りますかね」


藤田「どうしよう……僕の家、せんりつのしゅらばだよー」


鬼頭「……」

厳蔵「……」

鬼頭「厳蔵んち、開けろや」

厳蔵「Σえ! うちですか……しょうがないな~」

鬼頭「行くぞ、藤田の倅。ゴリラんち」

厳蔵「カップ麺しかないんですけど(汗)」


藤田「ほえ。いいの? ありがとー」




 篠塚家のバレンタイン・完

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る