そいつに乗っ取られたら、終わり……「遊星からの物体X」

 ――南極のアメリカ基地に、犬を追ってノルウェー基地の隊員がやってくる。言葉も通じず、銃を乱射したため隊員は射殺されるが、アメリカ基地の隊員たちは調査のために訪れたノルウェー基地で奇妙な死体を発見する。“それ”は人間に成り代わろうとした未知の宇宙生命体であり、ノルウェーの隊員は“それ”を殺そうとしていたのだ。やがて犬に化けていた“それ”が正体を現し始め――


 ジョン・カーペンター監督作品でもトップクラスの傑作にして、ホラー映画史に輝く名作SFホラー映画だ。原作はジョン・W・キャンベルの小説「影が行く」で、1951年に「遊星よりの物体X」で映像化され、82年に再映画化されたのが今作だ。生物の体を乗っ取り、成りすます宇宙生命体と、南極基地という閉鎖空間での人間との死闘、誰が乗っ取られているか疑心暗鬼になる隊員の駆け引きが描かれている。


 侵略生命体である物体X(名前が無く“それ”と呼ばれる)の造形が面白い。生物の体を乗っ取る不定形の生命体であり、本体は無いものの、乗っ取った生命体のガワの下に、ありえない構造の器官や触手が蠢いている……というもので、よくこんなんをアナログ特撮全盛時代に作ったなと言わんばかりの造形で、関心する。おまけに見せ場のショックシーンも徹底した作りで、触手とでろでろの赤い液体をぶちまけながら「同化」しようとする姿や、人間の姿を捨てて正体を現すシーンなど恐怖と生理的な嫌悪感を煽る造詣は今見ても決して色あせる事は無い。


 これを迎え撃つ人間側も「あいつが“それ”なんじゃないのか」「お前こそ乗っ取られてるんじゃないのか」という疑心暗鬼に陥られながらも迎え撃つ事になる……が、割と皆ポンコツで科学者のオッサンは真っ先に発狂して隔離されてしまうし、隊長はクソ優柔不断で途中から隊長の仕事を放棄するし、主人公であるヘリパイロットが実質この戦いの中心人物となるが、コンピューターのチェスで負けそうになると機械ごとぶっ壊すような男なので対応策や“それ”の判別方法がとにかく雑という「オイオイ人類救えんのかよこいつら」と言わんばかりの面子で、その匙加減が面白いし、見た人の判断に委ねる含みのあるラストも含めて味わい深い。


 おまけに南極という閉鎖空間で、脱出手段も連絡手段も封じられた極寒の基地、という舞台も良い。とにかく寒々とした光景の世界と、得体の知れない敵との戦いがマッチしており緊迫感と荒涼とした雰囲気をかもし出しているし、そういった世界にこの地球ににあらざる生命体が潜んでいる、という恐怖感も実にマッチしている。時代が時代ならSCP財団に紛れ込んでも違和感が無いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る