お兄ちゃんがクズすぎる感染パニック映画……「フェーズ6」

 ――感染したら死亡確実のウイルスが蔓延した世界。グリーン兄弟やその恋人、友人ら一行は感染をどうにか免れ、徹底した減菌やルールを強いて安全な場所を求めて逃避行を続けていた。しかし、彼らの計画はあるルールを破った事から破綻していく。やがて、彼らの人間関係にも亀裂が入り始めてしまい――


 ウイルスの蔓延による感染パニック映画は数多いが、その中でも「感染により大変な事になった後」の世界を中心に描いている作品だ。ウイルスに対する恐怖が前提としてありつつも、その恐怖の元で生まれる人間の恐ろしさや不安定さを描く事に終始しており、ジャケットや予告編と比較してもホラーというよりは人間ドラマに焦点が当てられる映画である。


 主人公たち一行は映画の序盤は、それこそ旅行中の若者たちにしか見えないものの、ウイルスにより崩壊した世界からどうにか生き延びようと逃避を続けている事が描かれている。厳格なルールを課し「○○をしてはいけない」「××をしろ」と感染を防ぐためにありとあらゆるルールを用いて安全を確保している。

 そして、主人公一行のリーダー格となっているのはクリス・パイン演じる兄弟の兄貴。クリス・パインと言えば映画の主役も張ってるスターで、どちらかと言えば正義感の強いキャラやヒーロー然とした主人公を演じる事が多い俳優だが、今作では「リーダーシップある頼れる兄貴と見せかけてものすごいクズ野郎」を熱演しており、ある種のミスリードになっていのが面白い。


 物語が進み、自分たちが生存するためにどうしてもルールを破る必要が出てきた際、わずかな綻びが生じてしまい、グループは崩壊の危機に瀕していく。その中でも兄貴は常に正しい選択をする……と思いきや、基本こいつのせいで物事はひたすらねじれ続けていき、状況が悪化していくのだ。

 ホラー映画ものでは、よくモンスターや超常現象よりも人間のほうが恐ろしい、と説かれる事が多いが、今作はまさにその通りで、致死率100%ウイルス以前にこのクズ兄貴をどうにかしろよオイと画面に向かってつぶやきたくなる事請け合いである。


 また、限界な状況に陥った人たちの描写は秀逸である。娘が感染し、どうにもならなくなってしまった親子の顛末や、自身も感染し、感染した子供たちに安楽死という道を取らせようとする医者、人里離れた場所で、主人公以上に逞しく生活する生存者グループなど、国や組織が機能しなくなった絶望の世界で生き、死んでいく人たちの姿が強く印象に残る。

 もはや最後にはウイルスで死ぬしかねえ、という明日をも知れない世界の逃避行を、よりによってこんなクズ兄貴と一緒にすごすのかよ、という弟の姿が見ていて実に痛ましいし、ラストの破滅的なエンディングは却って清々しさすら感じてしまう。

 全体的に荒というかムラのある作品ではあるが、破滅の世界を向かえた黙示録へのロードムービーとしてはちょうどいい映画だろう。


 ちなみに虫嫌いの人はラストシーンは見ない方がいい。あれはひどい。

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