タイトル長い……「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」

 ――東西冷戦下のアメリカ、アメリカ戦略空軍基地指令のジャック・リッパー将軍が突如として発狂、指揮下にある戦略爆撃機を発進させソ連への核爆撃を試みる。発進した爆撃機を呼び戻すにはリッパー将軍しか解らない暗号コードを送信するしか方法がない。この未曾有の危機にアメリカ大統領は会議を開き、ソ連大使同席の元で事態の収拾を図る。やがてリッパー将軍の基地は友軍により武力制圧され陥落、しかしリッパー将軍は自殺し呼び戻しの暗号コードは不明になってしまう。全面核戦争の危機が迫る中、様々な人間がこの事態を収拾するべく奔走するが、やがて事態は思わぬ方向へと進んで行く――


 名監督スタンリー・キューブリックの描くブラックコメディ。公開当時センセーショナルだった核の脅威、東西冷戦と言った話題をふんだんに盛り込んでいるが、実は原作付きの映画であり、超真面目な政治サスペンスの原作が一転してコメディ映画になってしまったとの事である。どうしてこうなった。


 今ではもう歴史の一部となり過去の話になった冷戦という題材が、この作品で徹底的なブラックユーモアとして描かれる。たった1人の狂人によって崩壊する均衡、それに振り回されてただ慌てふためくしか方法が無い政府高官や将軍たちのドラマが会議室という閉鎖空間でユーモアタップリに描かれる。

 状況に翻弄されるアメリカ大統領、そして有名なキャラクターである車椅子のマッドサイエンティスト、ストレンジラブ博士、タカ派でソ連をぶっ潰す事しか頭に無いタージドソン将軍などの濃いキャラクターがドラマを盛り上げており面白い。特にタージドソン将軍なんかは当時のアメリカの反共産主義風潮を代弁するようなキャラでかなり皮肉めいたキャラとなっている。


 会議室の話が進む一方で、孤立した空軍基地では核攻撃を指示した狂人の将軍、リッパーとその騒ぎに巻き込まれた英軍の交換将校マンドレイク大佐のやり取りが進められておりそちらも面白い。リッパー将軍が核攻撃を指示した理由が本当にキ○ガイじみた理由だったり、マンドレイク大佐が頭のおかしい上官に振り回されながらも何とか核攻撃を中止しようと将軍を言いくるめようとする下りなどここもブラックな笑いがある良いシーンだろう。


 それから、無線装置の故障により只管目標へ向かい続ける爆撃機のやり取りも笑える。血の気の多い機長に率いられた爆撃機は最悪の事態になるかならないかの状態で劇中、あっちこっちを行き来する。呼び戻しも受け付けない、だが損傷によって墜落の危険はある、だが機長は爆弾を落とす気満々という状況で観客を煽るが結果は言わずもがな。ハルマゲドンを予期させるような映像が連続する中ヴェラ・リンの「また会いましょう」が流れるという最高に黒いオチなのも素敵だ。


 古い映画ではあるし、題材も同じ様に古い映画であるがブラックな政治コメディという題材では今目線でも自由分に面白い1作である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る