アンチアイス、オフ!……「墜落!ポトマック河の惨劇」

 ――1983年1月13日、アメリカ合衆国の首都、ワシントンDC。ワシントン国際空港にはこれからフロリダのフォートローダーデールへと向かうエア・フロリダ90便が離陸の準備に入っていた。それぞれの理由で乗り込んだ乗客や乗員を乗せ、離陸を始めようとした同機は突如としてポトマック川へと墜落。かろうじて墜落を生き延びた生存者は氷の張った冷たい川に取り残され、救出活動が開始されるが……――


【未ソフト化作品】

 メーデー民と呼ばれる某動画サイトの航空機事故ドキュメンタリー好きにはお馴染みすぎる事件を扱ったテレビ映画である。実際にあった出来事の映画で調べれば顛末もわかるので、今レビューは最後までネタバレしている。「この映画見ます!」という人は予めご了承下さい。そもそもVHSしか出てないが……


 冬の空港を離陸しようとしたボーイング737が翼の着氷が原因で離陸できず、パイロットの不適切な操作と判断が原因でポトマック川へ墜落した実在の大事故を描いている。航空機が川へ不時着するトム・ハンクス主演の「ハドソン川の奇跡」と同じく実話の航空機事故を描く話であるが、これはただただ悲劇を描く話でしかなく、事件自体も「ポトマック川の悲劇」と呼ばれている。


 話は淡々と進むため、正直に言うと単調な印象も受ける。乗客たちが機に登場するまで、そして飛行機への搭乗、墜落――極寒の川での救出活動に焦点が当てられている。再現映画、それもテレビ用映画としてはかなり頑張って作っている方ではあるが、いかんせん「舞い散る雪が発砲スチロールか何かで水面にそれがずっと浮いてる」「屋内セット故か実際の映像と再現のちぐはぐ感が割と目立つ」と言った事もあり、もっと予算あったらなあ、と思う場面もしばしば……


 とは言え、過酷な状況から生き延びようとする生存者たちの悲痛さと、彼らを助けようと奔走する人たちの姿をありのままに描こうとする努力は実っている。

 彼らを助けるために川へ飛び込み、何とか助けようとした者。テレビの中継画面で実の娘が今まさに死にかけている様子を見守るしかない母親。満足な装備も無いまま、操縦技能と浮き輪とロープだけで生存者の救出を試みるヘリパイロットたちの姿などが克明に描かれている。

 時期は真冬、おまけに厚い氷の張った極寒のポトマック川では機体の残骸にしがみついた人たちの命は長くは持たない。時間との勝負、その救出劇の顛末とその後を描いて映画はクライマックスを向かえる。


 実際にあった事件なので、調べれば結末はわかると思うのでネタバレしてしまうが、この件について周知されるべきは複数人の「英雄」だろう。

 機体の残骸が絡まり、救出困難な状況にありながら救助の順番を譲り続け、そして死んでしまった男性。救出のために川へ躊躇い無く飛び込んだ人たち(うち1人は通りすがりの連邦政府職員で、当時のレーガン大統領に表敬された)、そして無謀とも言える状況下でヘリコプターを巧みに操り、救助に尽力した国立公園管理警察のヘリパイロットたちだ。

 彼らの姿を知る事が出来る媒体は前述のドキュメンタリーがほとんどであるが「物語」としての作られた物で彼らを知るのであれば、今作は唯一の映画であると思う。

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