不屈の男の再起と逆転……「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」

 ――マッカーシズムの到来により赤狩りが本格化する第二次大戦後のハリウッド。映画の脚本化であるダルトン・トランボは共産党員であった過去によってハリウッドのブラックリストへ入れられ、その仕事を奪われる。だが、トランボは家族と共に偽名を使ってまで脚本を書き、傑作を作り上げる事でこれに対抗していく。トランボは傑作「ローマの休日」でアカデミー賞を受賞するが……――


 名作「ローマの休日」の脚本家は当初、イアン・マクレラン・ハンター名義であった。彼が当時オスカーを獲得した際は、誰もがこの傑作の脚本を、ハリウッドから共産主義者として追放された1人の男が書いたものだと知らなかった――その男こそ、ダルトン・トランボ。これはその不屈の男の半生を描く実録映画だ。

 時代はマッカーシズムが到来し、共産主義者の排除(赤狩り)にアメリカ全体が沸いていた1940年代末から50年代にかけてのハリウッドと、マッカーシズム終焉後の60年代を描いている。ハリウッド・テンと呼ばれブラックリストに入れられ、映画界を追われた関係者の中にいたトランボは、偽名や他人名義で脚本を書き続け、家族を食わせるため、そして自分を追い出した者達へ対抗するように「書くこと」で抵抗を続けていく。


 脚本という「作品」で戦い続けた男の姿が描かれているが、まさに見ていて痛快かつのめり込む作品だ。トランボは絶対に自分の信念を曲げず、それ故に投獄までされてしまう。職を失い家を失い、家族を食わせなきゃいけない。自分がもしこの立場に置かれてしまったら?と想像するだけでも絶望的だろう。

 だがトランボの不屈の男だった。家族と一致団結し、仕事に打ち込み「脚本家」として食っていく道を選び、それを成功させていく。


 若干、演出の面でスローな部分もあるが、映画は非常にテンポよく時代の移り変わりとトランボの転落と逆転を描いている。タイプライターの音を響かせながら、作品を書くことで抵抗を続けるトランボのひたむきな姿にも勇気をもらうし、彼の描いた良質な作品が観客の心を掴み、評価を得ていく様は見ていて実に心地よかった。

 ただの成功劇ではなく、仕事に打ち込むあまり生じた家族との不和、親友との決別、永遠の別れ……など、綺麗で完璧ではない話もちゃんと描かれているし、それを乗り越えるトランボの心強さもちゃんと描いている。

 

 また、彼を味方する人々も魅力的に描かれている。彼を支え、時には憎み、時には助けあう家族の姿は無論の事、金と女にしか興味は無いがトランボたちを雇う映画製作会社の社長(ジョン・グッドマンのブチ切れ演技がこれまた痛快!)、才能を見抜き彼を抜擢する映画監督オットー・プレミンジャー、彼の脚本を支持する期待の若手、カーク・ダグラスなど、実在した人物が魅力的に話に華を添える。悪役側も、何としてもトランボを貶めたい連中が魅力たっぷりに盛り上げてくれていて、キャラクター面では正直ケチが付けられないぐらい好きなやつ等がそろっている。

 何よりも名作ドラマ「ブレイキング・バッド」で名をはせたブライアン・クランストンの演技もすばらしく、目を見張る物があるだろう。彼の名演無くしてこの話も無かったのではと思いたくなる。


 映画のラストは老いたトランボの演説によって締めくくられるが、是非ともそのラストシーンの演説に深く耳を傾けてほしい。赤狩りという激動の時代を生き抜いた不屈の男の生き様とその胸中に、きっと心突き動かされるはずだろう。

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