父さんはマーベルのヒーローで食って行こうと思うんだ……「アントマン」

 ――泥棒を働き逮捕・投獄され出所したスコットは、仕事も続かず生活も上手くいかず、離婚で引き離された娘にも中々会えずどん底の日々を過していた。そんな中、かつての仲間たちと組んだ泥棒の仕事で身体の大きさを自在に操る謎のスーツを手に入れたスコットは、それが切欠で昆虫・物理学者のハンクからヒーロー「アントマン」となって、彼の弟子であり危険な技術開発に手を染めるダレンから新兵器の奪取と技術破壊を依頼される。スコットはハンクの娘ホープや泥棒仲間と共に、アントマンとしてこれに立ち向かう――


 マーベル・シネマティック・ユニバース12作品目にして初となる「アントマン」シリーズ実写化作品。監督は「イエスマン “YES”は人生のパスワード」「チアーズ!」のペイトン・リード、主演はコメディ界で活躍中のポール・ラッド。名優マイケル・ダグラスの出演や、マイケル・ペーニャ、コリー・ストールと言った個性的な俳優陣も出演している。


 内容はごくごく全うな「ヒーロー映画の1作目」という感じで、映画的なお決まりを踏襲している。「主人公がかつてのヒーローからスーツや技術を受け継ぐ」「ヒーローとして不慣れな主人公が失敗を経験しつつも学び強くなる」「最終的に主人公がヒーローとして独り立ちする」と言った要素が王道的に繰り広げられていて、そのシンプルさが昨今の複雑なヒーローとは一線を画した素朴さで見ていて気持ちがよい。


 しかも主人公のスコットのキャラや劇中設定やノリが絶妙で、そのシンプルさに程よい味付けを加えていて見ていてかなり良かった。ダメ男で家族からも見放された男がヒーローになる事で父親としてのリスペクトと失ったものを取り戻そうとするザ・親父リベンジムービーと言わんばかりの泣ける話に、それを支えるサイドキックのハンク親子の溝と和解、主人公と愉快な仲間たちの3馬鹿が清涼剤たる笑いどころを提供、そして巨悪の陰謀に対してチームで盗みに入るというダーティかつ義賊的な犯罪ムービー感(この手のジャンルはケイパームービーと呼ぶそうだ)も相まっていて、色々と詰め込みながらも全部がちゃんと面白くカッチリと型にハマるという出来で、見ていて実に楽しめる作品になっていた。


 蟻程度の大きさになれるという、普通なら踏み潰されて死んで終わりだろそれと言わんばかりの存在であるアントマンというヒーローも、伸縮自在というアイディアを生かした戦闘や、普通に小さいままでもボコボコに出来るくらい強いがピンチになる時はピンチになるという絶妙な力の匙加減が面白い。

 敵役となるイエロージャケットとの戦闘も新(敵)VS旧(主人公)という能力バトル的な燃え要素が散りばめられていてアクション面でも思う存分に楽しめたし、ほとんど発想の勝利の連続で骨組みこそ王道だが見ていて目新しいのも評価が高い。


 後は笑いの要素も大きい。シリアスな場面はもちろん多いのだが、それを抜きにしてもいちいち笑いを取ってくるポール・ラッドの小気味よいおしゃべりの応酬や、ミニチュアサイズでの小さな戦いの中に散りばめられたユーモアが素晴らしく、重たい話で沈んだ心を引っ張りあげてメリハリを付けていたのも良い所。トーマスの下りとか腹抱えて笑ったわマジで。


 ただまあ、マーベル映画なので単品映画として見ると「このへんの作品見ておかないと理解はちょっと難しいかも」という部分はあるにはあるし、劇中では主人公を支えた頼れる虫たちの描写は虫嫌いの人にはとことん不快というかドン引きというレベルになっているのでやはり万人にはオススメできない部分もあったりするのは少し残念か。しかしMCU作品の大ファンや「俺虫とか全然好きっスよ!昆虫少年でしたし!」という人なら骨の髄まで楽しめるだろうし、エイジ・オブ・ウルトロンとシビル・ウォーの繋ぎ以上の楽しく愉快な映画に仕上がっている。

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