リングの上で繰り広げられる家族の物語……「ウォーリアー」
――ピッツバーグの故郷へ、海兵隊員のトミーが帰ってきた。アルコール依存症が原因で見限った父・パディの元へ身を寄せたトミーは、総合格闘技の大会で優勝し大金の入手を目論むためパディと共に特訓を開始する。一方でトミーの兄である教師のブレンダンは幸せな家庭を築き、父と決別した生活を送っていたが娘の難病治療や住宅ローンで貧困に喘ぎ、小さな格闘技大会で小銭を稼ぐ毎日だったが大会で大金を掴もうと決意する。偶然にも同じ大会に出た兄弟とそれを見守る父だったが、家庭崩壊を招いた父と子供の確執、決別した兄弟の確執が絡み合う内に、運命の悪戯によって兄弟はリングで対決する事に――
2012年公開の格闘技映画。主演は大ブレイクしたトム・ハーディに、ジョエル・エドガートン、ニック・ノルティを据える超豪華な布陣で挑んだ作品である。海外では劇場公開されたものの、2012年の公開以降日本には上陸せずソフト化も無かったと言う冷遇を受けた作品だったが、2015年のソフト化と限定劇場公開されたという経緯を持つ作品でもある。いやはや、来るのが長かった。
格闘技映画であるが、序盤から中盤は高揚感というものとは無縁の非常に重たい空気が漂う作品である。海兵隊でイラクから帰ってきた弟、平和な家庭を持ちながら難病の娘の治療費で困窮している兄、そしてその2人の兄弟から見捨てられた父親……
今まで交わる事もなく、家族の絆も崩壊した者達のドラマが展開されるが、映画では多くを語らず、断片的に、だが観客の心に何となく伝わるようにこれらのプロットが自然と展開されていく。
とは言え映像でも台詞でも多くは語られない物語があり、説明不足とも取れる描写もあるが、それを雰囲気や行間で物語るような編集や、見ている物に読み解かせようとするのめり込み具合もあってかあまり気にならないし、むしろ映画の雰囲気作りにも一役買っている印象も受ける。
そして格闘技大会によって3人が結びついた瞬間に物語は加速して熱くなっていく。大切な家族を救いたい一身で強敵に立ち向かっていく兄、リングの上では無敵だが戦場に何かを置いてきた弟が大会優勝を狙う目的とは?そして家族を失った父が兄弟と関係を取り戻そうとする姿……と言ったドラマがトーナメントが進むにつれて一気に加速していき映画を盛り上げていくのがまさに圧巻であり、重厚なドラマに思わず胸を打つ。
三者三様のドラマがあり、そして誰もが応援したくなるが、どちらか一方は負け、どちらか一方は勝たねばならないという状況、見ていて気が気でない戦いがリングの上で展開されていく。結末は実際に見てもらった方がいいが、一概にハッピーエンドとは言えないけれどとにかく前向きになれるような希望のあるラストには胸を打たれた。とにかく素晴らしい事は確かな映画である。
トム・ハーディ、ジョエル・エドガートン、ニック・ノルティという3人の主役もそれらのストーリーを大いに盛り上げる好演だった。
昨今、「ロッキー」を筆頭とする様々な格闘技を題材にした名作映画があるが、間違いなくそれらの中に混じって後世まで語り継がれるべき良さがあるだろう。見ようかどうか迷っている人がいるなら、迷わずにとにかく見るべきと胸を張って進めたい一本だ。
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