第62話 万全の体制

マルスは滞りなく進んでいくが、エリアスが私から全く離れる気がない。

オスカーも特に動きがないし、私の一つ下の貴賓席のブロックには奥様と双子がいる。まあ、双子はぐずって退出して戻ってを繰り返しているが、2歳児なんてそんなもんだろう。


なお、反対側にはお祖母様とオスカー、ルイーズがいる。名目はお祖母様の健康管理と風邪を引きがちな私のために神官とシスターを近くに配備ということらしい。


何も起こる気配がないが、私がもしオスカーの立場でマルス中になにかを仕掛けるなら終わりに仕掛ける。


恐らくオスカーも同じ発想だろう。それなら、それまでは存分に楽しんでおこう。魔法が使える世界での試合は華やかで良い。

最もこんなに寒いのに、使われる魔法がほとんど氷なのが難点だ。ラングレーの特質上、むしろ、氷ではない人の方が少ない。



「ふ、フローラさまは大丈夫ですか?」

「ええ、もちろんよ。彼らの勇姿に見惚れていただけ、私もあのように魔力を使いこなしたいわ」

「私もエミリも、まだ魔力は現出していないので。魔力があるというだけでも、素晴らしいですわ」

「まあ、ありがとう、マリエ」



今日、私の周りに侍ってくれているのはもちろんエリアスだけではない。

領地で開催されるこういうイベントは社交の場にもなる。


休憩時間は貴賓席の幕を下ろして人目を避けるのだが、そうすると私のボックス席に、後々学園では友人となるマリエ・ホフマン、エミリ・ジングフォーゲルの2名が顔を出してくれた。


この間会った後から知ったのだが、実は2人ラングレー領にいる騎士爵の娘ではなく、隣接する領の領主の息女だった。

ただ、ラングレーの次に国境近い小さな領と注釈がつく。


領地のことを考えたら彼女らは私と仲良くせざるを得ない。そこまで行き着くと、ゲーム内で彼女たちは純粋な感情でオトモダチでなかったのだと知る。

全く乙女ゲームの世界なのに、世知辛い。



「今日のフローラさまのドレス、とても可愛らしいです」

「そう?ありがとう。実はね、2人に贈物があるわ。私が今日つけているレースで作ったストール、受け取ってもらえるかしら」

「え!いただいていいのですか?」

「ええ、そのために用意したのよ」



赤のストールをエミリ、緑のストールをマリエに手渡す。どちらも2人の領地のテーマカラー、というか、旗の色だ。

ついでに、ラングレーは白と青で表される。


可愛しい2人とお茶会を終えて退出を見送ったら、貴賓席の幕は上がる。



「レオンの出番ね」



既に成年の部は終わり、私の騎士選抜がはじまる。


成年だと、就職で他所からラングレーにくる騎士もいるから多少は氷以外の騎士がいたが、少年の部となるとジーク以外はみんな氷魔法だ。

今年は例年と異なり、奴隷身分でも該当年齢は見習い騎士と同じ区分で出場になる。


子どもの奴隷なんて滅多に買わないから該当はジークだけになるが、エリアスはジークの魔力量の多さと私が選んだというのを加味してくれたに違いない。


向き合ったときの立ち姿からも想像ついたが、レオンは辛勝にすらならず、もはや魔法すら使わずに相手を下す。

騎士見習いは全員が全員魔法を現出したいるわけではないから、相手によっては魔法を使う必要がない。



「レオン、強いのね」

「フローラさまと比較すると、魔力量は劣るかもしれませんが、ラングレーの見習いの中では次代を期待される若者です」



背後にひっそりと控えてくれるアンが応えてくれる。私の後ろにはエリアスは護衛として徹しているらしくお喋りには参加してくれない。


ジークもこの寒さを吹き飛ばしてくれる炎を期待したのに魔法を使わずにしっかり戦えている。

上から見ると何となく動きの良さがレオンの方が良いことがわかるが、攻略対象だったことを考えるとジークの方が魔力量は多い。


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