第61話 マルス開幕
ようやくマルスの当日だ。
感慨深いため息をついて、鏡にうつる自分の顔をマジマジと見る。
わざわざ粉末から自分で作り上げた青と緑の化粧下地、肌を白く見せたいOL様なら知っていて当然の日焼け止めを活用して、顔色を悪くしていた。
ただ、今日は晴れ舞台だから、その上にあえてチークは多めに塗って、体調悪いのを周りに悟らせない健気なお嬢様を演出している。
強い騎士様たちが大好きなか弱くて可愛いフローラさまを演じるのはこれで十分だろう。
令嬢が騎士たちの心を掴むのは王道中の王道。
だけど、金と身分だけで求心できると思ったら大間違い、自分のことを強いと思ってる騎士なら「可愛いお姫様を守れる自分」が1番好きに決まってるじゃない。
「さて、叔父上はどんな舞台を用意してくれているのやら」
広い部屋にも響くノックが鳴る。
さあ、ここからが本番と微笑を浮かべる。
「エリアス、入って良いわ」
「フローラさま、支度はお済みですか?」
「ええ、もちろんよ」
私が椅子から立ち上がると、ふわりと白いスカートがひるがえる。
ラングレー特産のうちの1つ、羊の毛を編んで作られたレースを使ったドレスだ。
今日はさすがにマルスの主賓で、さらに奥様に見劣りするわけには行かないので、ドレスで締めている。
白を基調にした布の上にひるがえる水色のレースがラングレーらしさを演出していて、私の目指すイメージにぴったりだ。
立ち上がってから、一通り姿を確認した後にエリアスに問いかける。
「どう、かしら。マルスの名を与えるのに不足はない?」
「もちろんです。可憐なフローラさまのお姿に、皆が奮戦することでしょう」
服飾等に言及しないあたりが、エリアスらしい。
妙に鼻息荒くお返事を貰ったが、今日一日の護衛計画を策定しているのは彼なので中身を要約すると「護りがいがある!その隊長の俺カッコイイ!!」だろう。
そう、今日のマルスで私のエスコートと護衛はエリアスが直々に務める。
「今日、レオンの調子はどう?」
「愚息を心配してくださり、ありがとうございます。心配には及びません。アレもラングレーの騎士、戦う覚悟はいつだってありましょう」
「そう、良い試合を楽しみにしているわ」
エリアスのエスコートで会場へ向かう。
途中途中で敬礼をしてくれる騎士に笑顔を返しながら進んでいく。いつもより警備が手厚くて、銀髪だらけだ。
普段は訓練場として使っている城の一角を解放してマルスは開催される。
もちろん平時に比べれば城の警備段階は高いが、城中に一般人がたくさんはいるから余計なものももちろん入りやすい。
だからこそ、魔力を持つ騎士が私の周りにたくさん配置されているんだろうけど。
さて、そろそろ引き締めていかないと。今日だけで、そこそこ戦果をだしていかないいけない。
「ラングレー公爵代理、フローラ様のご入場」
普段は謁見の間で、声を張り上げてくれる騎士が私の入場を伝えてくれる。
最敬礼で待ってくれている騎士たちに微笑んで、応える。うんうん、いい具合に見たことのある顔だらけだ。
めんどくさいと思いながらも、城にいる全員と話しただけの成果はあった。
「フローラ・ラングレーの名において、マルスの開会を宣言する」
宣言をして、訓練場に並ぶ騎士たちとラングレーの抱える戦場奴隷を見下ろす。
レオンと目が合ってちょっとだけ微笑んでみせる。
知り合いを見つけてほっとした様子を演出、またはあなたに期待しているわ、のどちらの意味で伝わっても構わない。
それにしても、これで精鋭だけとは恐れ入る。国境を預かる公爵家の戦力なだけある。
国防や城の防衛に穴が開かないように成年騎士たちの試合は多くの予選を設けて、マルス当日に参加する人数を絞っている。
だからこの場に来ている成年騎士と戦場奴隷たちは各地の精鋭だ、もちろん隊長職は除いている。
「今年12歳までのものについては、ラングレーの姫君近衛選抜も兼ねている。大いにその力と忠誠を示すが良い」
私の宣言のあとに、エリアスがルールと今年の特例を告げる。予め公示していたので、特にトラブルはなさそうだ。
そのトラブルを計画しているだろう叔父上、オスカーは私の座席の斜め後ろに陣取っている。エリアスと反対側の斜め後ろだ。
ここまで警戒しているエリアスの元で私を害させようなんて、叔父上も随分と相手を追い詰めたものだ。
何をしたのかなんて具体的には聞かないけど。
「お手並み拝見ね」
真っ白な扇子で口元を隠して、叔父上に笑いかけた。
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