第63話 ジーク・ハイスフランネ

見習いの部、初戦を見終えてわかったことがある。


なんだ、レオン楽勝じゃん。心配して損した。


年齢も低い方だし、攻略キャラに比べたら魔力も少ない。だから勝ち抜けなかったらどうしようと思っていたが、上位4位には余裕で入れる。


私の騎士を決めるマルスのルールは、該当年齢の中から忠義を見せたものとなっているが、実質は上位4名を候補として育てていくことになる。

育ててみて特に問題なければ、その中の1名が私の筆頭護衛騎士になる。


レオンがその4名に残るのは当然とも言える。私がこれまでレオンと比較していた攻略キャラの半分は皇族、貴族の中でも魔力が強い人をより集めた精鋭の一族と言っても良い。

そんなのと騎士爵の息子を比べるなんて烏滸がましいにも程がある。


攻略キャラ《チートたち》に劣るからといって、それ以外の名前もシルエットもでてこないモブと比べたらレオンは強いということを学んだ。

ジークという攻略キャラ《チート様》が現れなければ、レオンはあんなに焦ることもなかったということだ。



「無事にレオンは入れそうね、エリアス」

「一戦を見て、騎士たちの力量差がわかるとは、さすがはフローラ様です」

「レオン、ジーク、それにアダルフォは確定ね。もう1ブロックはシュルツかしら」

「まだ結果がでるまでは、わかりません」

「そうね、でも、苗字は用意しておかないといけなさそうね」



どちらにしろジークのあの強さと魔力量を考えたら、一代限りに限定するとしても騎士としての苗字は必要になる。

下手すると、ラングレーで最も魔力が強いとされるラングレー一家よりも強い魔力で、苗字を与えて囲いこまないのは下策でしかない。


ジーク・ハイスフランネ


ゲームでのジークの名前だ。ゲームの終盤で、騎士として奮戦するジークに、一代限りの爵位として皇帝陛下から賜った苗字だ。



「そのうち騎士爵を得るわ、彼は」



少し悩む素振りを見せながらも、奴隷から庶民身分になるジークに与える名前は決めている。

要らないところで補正かけられて、ジーク・ハイスフランネにするために、急遽引き抜かれたりしても面白くない。


そんな会話をしている私たちを他所にジークは魔法を使って3戦目を勝ち抜いた。

これで、アダルフォに続いて、ジークは上位4名の中に入ることが確定した。



「エリアス、騎士の栄誉を行う前にジークへ身分贈与の儀式が必要そうよ」

「承知いたしました」



ちょっとエリアスの声音が微妙な理由にようやく思い当たった。エリアスは生粋の騎士だったことをすっかり忘れていた。


借金奴隷の少年が急にお嬢様の気まぐれで同じ身分に引き上げられることを心から祝えるはずがない。

危なかった、ジークの離反のタネをまいてしまうところだった。


振り返ってエリアスの目を真っ直ぐ見据える。



「エリアス、私はラングレーを大切に思っているわ」

「存じ上げております」

「端的に言うわ。ジークは、私よりも魔力が多いの」

「な……んですと」



それは当然と言えば当然のことだ。


悪役令嬢に劣る攻略対象がいてたまるか。フローラ・ラングレーがいるのは、そう言うお嬢様方の希望を叶えてくれる乙女の夢が詰まった世界なのだから、もちろん悪役令嬢フローラよりも攻略ジークの方が強い。


でもそれは私が知っているから分かることなだけで、一般的には魔力が強い人を集めている皇族や貴族の方が魔力が強い傾向があると言われる。

フローラが色々と噂をたてられていることを有効に活用しよう。



「このラングレーが担うのは2カ国との国境。有能なラングレーの守手を増やすことに私は躊躇しないわ」

「……私の覚悟が甘かったようです」

「いいえ、これまであなたがたの覚悟が国を護ってきたのよ。でもこのラングレーが誇る力は氷、ジークの力は炎。ラングレーに新たな力が加わってくれたらより磐石になると思うのよ」

「フローラ様の仰る通りかと」



ここまで言えば騎士たちの態度ももちろん変わるだろう。

元々私が指名で入れた上に急激な成長を遂げていたからそこまで悪い状態ではなかったと思うけど、騎士を束ねるエリアスの確約が得られたなら心配ないはずだ。


口にしたら何かを引き寄せてしまう気がして、今まで攻略キャラのフルネームは音にして呼んだりしてみたことはなかった。



「ジーク・ハイスフランネ」

「かしこまりました」



レオンの試合が始まる合図を聞いて、前に向き直った。レオンの勇姿を見なかったら私の評価がガタ落ちだ。

保身のためにもしっかりと彼をつなぎとめなければいけない。


自分より背の高い見習い騎士にうちかかるレオンの姿を見守った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る