第50話 若いものに負けてられない
傷があるために巻かれた包帯を隠すにも、うってつけだったと、鏡の中の自分に笑いかける。
正装騎士服を着て、髪の毛を1つに結い上げた姿はなかなか様になる。
ハリスが攻略キャラでその従姉妹兼婚約者の私が不細工なわけがない。
これを見てハリスも夢から覚めてもらいたい。
本来ならサーベルがさがると思われる位置にはアクセサリーがある。
魔力を込めると、盾を現出させる効果があるらしい。剣より先にそっちを与えて欲しかった。
ちょっとため息をついてから、眉尻をキリリと上げた。そして、私と違う意味で鏡にため息をついていたおばあさんに話しかけた。
「お祖母さま、騎士服なので補助は……」
「かつての息子にそっくりだねえ。甘えるのも子どもの役目、おばあさんに少しは役目をおくれ。私もずっと気にしていたのよ」
誰にも何も言っていなかったはずなのに、ルイーゼとオスカーを引き合せる計画がバレていた?
いや、結果的にそうなるとしても、私がオスカーとルイーゼの関係を知っていることを他の人が知るはずがない。
私はただ助けてくれたシスターと、一緒に戦ってくれたオスカー含めた騎士たちにお礼を言って労うのが目的だ。
結果的に、ルイーゼとオスカーが鉢合わせるだけ。
そのあとどうするかは、オスカーの甲斐性。
オスカーだって高位の神官だ、なんとでも理由をつけてシスターぐらい連れ歩ける。
「なんでも1人で、できるようになっちゃって……」
「お祖母さま。レオンも1人で用意をします。ラングレーの名前を名乗る私も、できなければ人はついてきません」
「そうか、いい子だね」
お祖母さまが気にしていたのは、私のことらしい。
焦って早とちりするところだった。
「フローラ、フローラ」
「はい、お祖母さま」
骨ばった節のある手が私の頭を撫でて、僅かばかりの髪飾りを飾っていく。青色の装飾のついたピンが、結われている髪の毛を彩る。
「昔買ったものだから、若い子には合わないかもと思ったけど。あなたは似合うわねえ。私には合わなかったのよ」
なんとも返せず金縁の眼鏡の向こうの瞳を見る。クルミ色の淡い瞳が優しげに細められていて、少しくすぐったい。
綺麗に編み込まれて橙色のリボンが揺れる祖母、マーガレット・ラングレーの髪を見る。
今は白髪のマーガレットの髪は、かつて亜麻色だったと聞く。
「ニオはいい子だったわ。本当に。あなたが精霊と話せるのも、賢いのも、ニオのおかげね」
「お父様がお嫌いなんですか?」
「ニオがいたころのあの子はいい子だったのよ。領地のこともしっかりとして……。でも、そこから親が逃げたらダメね」
鏡越しに見つめ返してくるマーガレットの目力が強い。
「子どもに荒れた領地を元に戻すのをいつまでもやってもらう訳には行かないわ。この年寄りでも、できることがあるわね」
「お祖母様?」
「さあ、みんなが待ってるわ。小さな騎士様、エスコートをお願いできるかしら?」
予想外にもここのお宅訪問は別の効果も生みそうだ。今の奥様包囲網を確実に狭めているのは良い兆候だ。
オスカーとレオンというシナリオ上の内憂を抱き込んでも、他国の間諜が親として傍に居たんじゃどんな補正が働くかわかったもんじゃない。
「喜んでエスコートさせていただきます、マダムラングレー」
ハリスとの婚約回避は無理だろうと思っていたし、今回の旅はまあまあ収穫があった。
子ども《キッズ》の力では厳しいものも多かったから、祖父母がでばって領地平定してくれるなら、それに越したことはない。
そして、今日の私からのワガママとして依頼したこの会、主催はこの祖母らしい。
広間に向かう廊下はブーツですら絨毯のおかげで、足主が消える。
柔らかな微笑みを浮かべる祖母の手を引きながら長い廊下を歩いた。
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