第51話 やはり私にヒロイン補正はない
ついたら既に佳境だった。ヒロインはよく大事なシーンに一度も乗り遅れずに見れたと感心する。
オスカーが余裕のある神官面を遠くに投げ捨てて、赤毛のシスターを抱きしめている。
この世界の神官は結婚もするから、異性交友禁止ってわけじゃないし、別に好きにしたら良いけど、ハリスも目が点になっている。
恐らく誰も何も反応できずに止まっているだろう場に入り込んだ私とお祖母様マーガレットの居心地はめちゃくちゃ悪い。
とはいえ、感動の再開の続きは後にしてほしい。まだ幼いハリスがいるのだから、R18どころか、R15も禁止だ。
「あら、おじさまとシスターは知り合いだったのですか?」
「あ、ええ、はい」
状況に気がついたらしいシスタールイーゼの対応でオスカーも現実に帰ってきたらしい。
「おじさま、おじさまにもそういう方がいると知って安心しましたわ」
「……なるほど」
おっと、純粋無垢な子どもスマイルのつもりだったが、なにか邪心がでてたかもしれない。オスカーが勘ぐるようにこちらを見ている。
オスカーの視線を無視して、マーガレットをエスコートして主催の席に案内する。
壁際に寄っていた別邸の執事にエスコートしてもらって、私が座るだろう子ども向けの席につく。ハリスの向かいなのはご愛嬌だ。
苦笑いを含んだ微妙な笑みを私の方に向けてくれるハリスに微笑み返す。
「あらあら、ずっとご令嬢との婚約を拒む理由はそれだったのね」
「ま、マーガレットさま」
「オスカーは神官として公爵家の継承権も放棄しているから誰と結婚しようと私たちには関係ないのよ」
沈黙したまま鋭い目を向けるオスカーはきっと私が推測したこと以上にたどり着いて、両親への疑心をますます深めたに違いないが、そんなことは関係ない。
ラングレーに護るべき、探していたルイーゼがいるとわかればラングレー陥落に手を貸したりはしないはずだ。
ルイーゼもかつて気にかけた少年と出会えてよし、ルイーゼと出会えてオスカーもよし、ラングレー陥落に手を貸されず私もよし。
オスカーの件は、まるっと解決だ!
たぶん。
その後の夕食は含みを持ちながらも和やかに終わり、后妃様とハリスを見送って……
案の定、オスカーに捕まった。
「さて、どこから知っていました?」
「おそらくあなたの想像通りよ」
さすが悪役令嬢補正、ストーリーに乗り遅れることはあっても敵から逃がしてもらえることはないらしい。
一周回って感動すらするほどの補正だが、物語は美味しいところどりをするものだから、端折られているだけかもしれない。
それにしても折角の乙女ゲームなのに、初壁ドンは叔父上。若干殺気立っていることとルイーゼのことも鑑みると、どんなにイケおじでも、ときめき度はゼロ。
全く、残念すぎるわ。
「あなたが組んだ御幸の行程には、ルイーズのいる修道院が入っていた。これがただの偶然というのはありませんね」
「あら、私がこの間の修道院生活をして、ハリスにも修道院を見てもらいたかっただけかもしれないじゃない?」
「それなら、この辺りで有名どころは別の修道院になる」
「それは知らなかったわ。私だって子どもだもの」
いいこと考えた。
意外と義理堅いオスカーならこの形で念を押されて裏切ることはないだろう。
「"内憂"の排除で、貸し借りなしよ。親愛なるおじさま」
「セーリャからの手紙」
「あら、内憂の一環でしょ?」
まさか神官とは思えないほど、極悪な笑みを浮かべたオスカーから逃げ出げだすと、イヤホン越しに聞いた覚えのある笑い声が背後から響いてきた。
崩落するラングレー城のシーンで聞いた笑い声だ。
別邸崩落にシナリオ切り替わったとかないよね、ぎょっとして振り返るとオスカーから問いが投げかけられた。
「それで、フローラ。フローラから見て、私に足りていないのはなんだと思う?」
「真っ当な教育」
「ご最もだ!」
ルイーゼという真っ当な家庭教師を失ったオスカーに不足したものは間違いなく教育だ。
そして、オスカー的にもその回答で満足だったらしい。別邸の一角に不穏な笑い声が木霊していた。
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