第39話 設定仕事しろ!

くそ!なんだって?

思わず言葉にでるところだった。相変わらず凶報を持ってくる天才め。


驚いた顔を貼り付けてオスカーを見返す。

私以外が驚いていないのが憎らしい。なんだってアイザックから打診がくるのよ。



「ハリス殿下とムーンフィストの第八王子アイザック殿下から婚約の打診がきております」



昨日のあのあとは結局、部屋のソファでレオンにもたれかかってお昼寝しただけだ。

まあ少しは演出が必要と思ってレオンにグズってみせたら、レオンがお手製の蜂蜜入りのミルクをくれた。

意外なところでお気に入りを発見した。下手な紅茶よりも断然美味しかった。


そんな回想に入りたくなるぐらいオスカーが持ってきた報せはろくでもなかった。

なんだってアイザックは私に婚約を打診した。


設定どうしたのよ。

仕事しろ、私の設定。

私はハリスの婚約者としてヒロインをいじめ倒さないといけないはずなのに、アイザックの婚約者では設定が大分違う。

それにアイザックは好戦的な王子じゃなかったの、この間の謁見か?それともシャナクが原因か?



「どうして、隣国から」

「ムーンフィストの中で一部好戦的な一派がおりましてな」



アントンの台詞にすかさず脳内で補填する。

はい、それ、筆頭アイザックね。



「それを憂慮した第八王子から領を接するラングレーの息女と婚約できないかと」

「普通ならハリス殿下と婚約予定のフローラさまにその話は持ってきませんよね」

「ハリス殿下との婚約はうちうちのもので、他国にまではまだ公開していなかったため」

「ブッキングしてしまったわけね」



海より深いため息だ。

昨日のうちにアントンには説明したらしくアントンが説明係で、オスカーはこちらを存分に観察している。



「それで、お父様は?」

「ムーンフィストに次女でどうかと返答をだしております」

「…そう」



ラングレー領主はフローラに国内にいて影響力を持って欲しいのだから、まあ想定できる対応だ。


好印象も悪印象もない妹の行く末に合掌する。

アイザックの嫁とか苦労しかしないだろう。まあ第八とはいえ、あいつはのし上がる。

妃にはなれるから国母だ、良かったね。


さて、それならなぜわざわざオスカーがこちらに来た。



「ラングレー領にハリス殿下が視察を兼ねて顔合わせにいらっしゃいます」



とんでもない案件が飛んできたよ。

思わず半眼でオスカーを見てしまう。


第2后妃陛下の里帰りも兼ねてラングレー領に来るとは、なるほど。

確かにハリスとフローラは幼少期に遊んだことがあると会話で見たことがある。そういう繋がりだったのね。



「第2后妃陛下も現ラングレー領主からの支持をつけるために、長子フローラさまとの婚姻を望まれていますから」

「そう」



ハリスの婚約者は恐らく不可避、私としてもアイザックよりマシという対応だ。


婚約者になったところで、ヒロインがハリスルートにきたら私も別の方が好きだったのよと言って譲って問題ない。

その年まで大きくなれならどうにでもなる。



「フローラさま、いかがされますか?」

「会わない選択肢はないでしょう?アントン」

「新しいお召し物を作らせましょう」

「ええ、后妃陛下にお会いして問題ない服を用意してちょうだい」



可もなく不可もなく、ハリスに薬にも毒にもならない相手を演じないと。気に入られてもヒロイン出現時に婚約破棄をするときに面倒だ。

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