第40話 謎は深まる

足元で広がる可愛らしいレースのドレス、それに合わせた白いレースの靴下に大きなボタンのついたパンプスを履いて、さあ完成。


どうやっても貴族らしい応対をしたら子どもらしさはどこかに吹っ飛ぶ。

見た目だけでも子どもらしい可愛いを追求した結果だ。

アンも満足気だからこれで良しとする。


いつものように部屋の外で待機のレオンに話しかける。



「レオン」

「フローラ…さま?」

「大丈夫、アンしかいないわ。入ってちょうだい」



アンがレオンを部屋に招き入れる。

今日のレオンは私に付きっきりなだけあって、いつもより気合いの入った礼装騎士服だ。


同年代ならカッコイイ!と評するのかもしれないが、どうしても中身が中身のために「可愛い!七五三?」というのが私からの感想だ。

レオンはなんとなく居そうなモブキャラなだけあって、写真館とかに飾られてそうな仕上がりになっている。



「フローラ、どうした?」

「相談、いえ、作戦があるのよ」

「……お聞きしましょう」



ちょっと悪巧みをする笑顔だけで、レオンは既にそれで私の中庭こっそり侵入と食堂裏こっそり侵入に付き合わされているために何か悪いことをしようとしていると理解したらしくため息をついた。



「至って無難な応対に努めるわ」

「どういうことです?」

「今日はいつもと違って年相応に振る舞うわよ」

「フローラさまが5歳児らしくですか?」



レオンの顔に嘘でしょう、気持ち悪いぞと書いてある。

なんで年相応の行動でそんな対応されなければいけないんだ。


お行儀悪く膝を叩いて言葉を続ける。



「いい?ここで下手に気に入られてご覧なさい。

将来、もしもよ、ハリスがとーっても好きな女性と両思いになっても、私と結婚してしまう事態になるんだから」

「いえ、無難にされてもそうなるかと。ハリス殿下は一番皇帝の座に近いと専らの噂です。皇帝陛下は后を3人娶ります」



言われてみればそうだ。

これまで日本人の感覚で考えていたから何も思っていなかったが、物語上おかしいところがある。


ハリスは順当にいけば、皇帝になる。そうなれば后は3名娶る。

なぜ物語でわざわざハリスはヒロインを娶るためにフローラ・ラングレーと婚約破棄をした。


公爵家の後ろ盾を捨ててまで得るものがそれにあるか?

ヒロインが后になるから后を敬わなかった不敬罪?

だが、フローラとヒロインの立ち位置は同じ、家の力でいえばフローラの方が断然強い。


他に后候補なんていなかった。

それなら断罪という形で公爵家を敵に回すのはハリスにとって愚策だったはずだ。


なぜハリスは婚約破棄をした?



「なにかカラクリがある?」

「どうした?」



どちらにしろハリスたちはもう近くまで来ている。応対しないという選択肢は存在しない。



「変に気に入られて王都に呼ばれても面倒だわ。どちらにしろ対応は程々にする」

「俺は?」

「いつもと様子が違うとか言わないでちょうだい」

「それだけ?」

「ええ、そもそも私たちにそんな動きを大人は期待してないわ。大人しく流れに身を任せていたら大丈夫よ」



ドア向こうからアンの来訪者を告げる声がした。

そろそろ王都からの御一行様が到着されるらしい。


さて、いよいよ可愛いであろう婚約者ハリスとご対面だ。

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