第37話 なに?悪女のよう?

ルークルーズの視察から戻るとレオンは私の警備を他の騎士に任せることにしたようで、果敢に大人騎士と稽古をしているらしい。

子どもうちは技術の伸びが早いが、筋肉を付けすぎると成長に弊害がでるからそこそこの方がいい。


やる気溢れるレオンにそんなことを言うのは気が咎めるので、毎日おやつに誘って稽古を妨害するだけに留めている。


私はエリアスとレオンの付き添いで朝夕の稽古、超巨大な氷の剣を小さくする練習と簡単な木剣の稽古を続けている。

基礎がないよりあった方がもしものときの生存率が上がる。ホンの数パーセントとバカにすることなかれ、それで生死が決まるならやっておいた方がいい。



「アントン」

「はい、フローラさま」



視察から戻るとはじめは子どもワガママぐらいの対応だった周囲の反応が変わってきた。

どっかのお喋りな市長が私の噂を存分に話しているらしく、ラングレー領では精霊の声を聞く聖女の生まれ変わりではないかとまで私が崇められている。

名前がフローラなだけで随分と安直だ。


アドバイス通り、麦以外の豆や芋はルークルーズに根付いたらしい。



「商人の件ですが」

「ええ、予算からいえば南部より西部の方がいいような気がするけど、安定した供給は南部ね。

どちらからも穀物の購入をして、保存が聞くものなら保管用にしてもいいわ」

「承知いたしました。こちらが先日依頼された報告書でございます」



アントンは上手いことやっているようで、私の発言を次期ラングレー領主の発言として法律に照らしているらしく、次々と私の言うように変えてくれている。

現在のラングレー領主は領地に興味がないから奥様にさえ妨害されなければ色々とやりたい放題だったようだ。


逆に奥様がやりたい放題していたとも言う。


アントンは私が直系長子であることを使って、奥様よりフローラさまの意見が重要ですと奥様の意見を突っぱねている。

奥様もそろそろなにか行動に移ってくるだろう。



「服飾にそんなに予算は要らないわ。そもそもこちらにいないじゃないの」

「はい、それではそのように」

「領地に滞在するのはどのくらいの日数?その日数分あればいいわ」

「7日いれば多いぐらいでしょうか」

「領地用のドレスは7着残して他は売り払って、他の人も同様に」



奥様は相当見栄をはりたいのか、年に数日も滞在しないラングレー用に100着以上もの服を用意していたみたいだ。

居ないのにどうやって着るのよ、王都の屋敷に置いておけば十分でしょう。


成長しているから確実に着れないだろう弟妹のものは刷新するよう指示する。



「フローラさまは」

「普段着は稽古用の騎士服が3着あればいいのと、公務用が謁見用5着、視察用の服3着かしらね。

リボンとかでリメイクしてもらえば毎回新しいものである必要は無いわ」

「それは少な過ぎるかもしれませんな」

「反対よ、反対。私のことを覚えてもらうには、青色のラングレー領を代表する色を常に身につけてるぐらい印象の方がいいの」



人間は顔なんて大して覚えてない。

毎日コンビニのレジで顔を合わせている店員が、スーツ着て電車に乗っていて気がつくか?というのと同じ話だ。

相当インパクトのある人でない限り、場所と服が違えば気が付かない。



「着飾るよりも先に、ここは砦なんだから武器を揃えるべきでしょう。防衛に予算を回して」



アントンに予算の変更をあーでもないこーでもないと相談と指示をして、ようやく真っ当な経済状況になった。

なんであんなに貧弱な要塞装備のくせに赤字なのかと思ったら奥様の謎予算分けのせいだったらしい。


要らない部分をカットしたら次はなにか収入源を作らないとね。


アントンが退出したあとも机に向かっていたら、郵便係の少年がお手紙を届けてくれた。

この手紙、真っ当な手紙かなあ。


送り主は妹名義になっているが、私が6歳にまだなっていない年齢で母親が違う妹となれば恐らく赤子を卒業したぐらいか赤子。文字が書けるか怪しいと想像がつく。

私の記憶が正しければ2歳だったはずだ。


そうなれば、手紙を1人で開けるのは危険だ。


ただなにかあったときに他人に開けさせるのは外聞が良くない。

妹名義で殺しはしてこないだろうから、レオンを近くにして、使用人の目が届くところで開けよう。


この時間ならレオンはそろそろ私のおやつに同席するために稽古場から上がってくるはずだ。

大人の騎士達に混じって水場で埃を落としているレオンに駆け寄る。



「レオン!見てみて、妹のセーリャから手紙がきたの」

「妹君からですか、良かったですね」

「折角だから中庭で見ようと思って、レオンも一緒にくる?」

「同行させていただきます」



家族に憧れる子どもらしく年相応に喜んでみせると騎士たちは一様に悲しそうに私のことを見てくる。

基本的に騎士たちは人のいいのが多い、一生懸命な子どもというだけで無条件に信じてくれる類の人だらけだ。


銀製のベンチに腰掛けると、レオンにも隣に座るよう促す。

このベンチは先ほどの騎士たちからも見える位置にある。他にもお部屋や廊下の掃除に勤しむ女中や使用人の目がある。


ここまでして何もなかったら拍子抜けだ。



「セーリャ、字が書けるようになったのかな」



うふふと笑って手紙の封印シールをはがす。

ピリッとした痛みとともに鮮血が手紙を汚す。

古典的な刃物入りだったかあ。



「きゃっ」



痛みで手紙を取り落とすと紫のもやが手紙から浮かび上がる。魔法を組み込んでいたのか。

意外と手の込んだ仕掛け手紙じゃない。想像以上だわ。



「フローラさま!!!」



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