第33話 可愛いお姫様は絵本の中
精いっぱいの着飾り、髪の毛を編み込んで、真っ青なワンピースに身を包む。
ほんのりと唇に色が付くリップクリームを塗ってもらって完成だ。
鏡に映るフローラのお嬢様姿は様になっている。
攻略キャラの反則的な魅力を持つメンズたちと一緒にゲームカバーを彩るだけあって、フローラの見栄は悪くない。むしろ綺麗な方だと思う。
ちょっと気が強そうだが、ゆるほわの何にもできませんの権化のようなヒロインよりも私は好感を持っている。
「かわいらしくできましたよ」
「ありがとう、アンは上手ね」
私がラングレー領に戻ったために雇用された使用人のアンは恥ずかしそうに微笑む。
先日あった友人役の二人、マリエとエミリのような貴族ではなく騎士家系であるもののアンも領内ではいい家柄の出らしい。
それにエリアスがお墨付きを与える私にとって、安全な人だ。
どちらかというとこっちの方が大切だ。
義母の息がかかっていないメイドということの方が希少価値が高い。
「気を付けてくださいね」
「ええ、大丈夫よ。レオンもついてるわ」
「では、レオン様をお連れしますね」
「よろしくね、アン」
アンが部屋を出てから、改めてフローラのお嬢様姿を見直す。
アンが整えてくれた恰好はかわいらしくて、まるでお姫様になったような錯覚を覚える。
もう一度、姿見の鏡を見る。
そこに映るのはお姫様ではない、自力で自分の身を守る必要のある悪役令嬢だ。
皮肉を込めて鏡の中の自分を嘲笑する。
可愛いお姫様だって?
そんなのに甘えて死ぬのはまっぴらごめんだね。
「似合ってるよ」
「そう、ありがとう」
「ただ、笑い方」
「大丈夫、営業用の笑顔はまた別だわ」
周囲の目がないからかレオンがため口だ。
この間、レオンは義母に手紙を送る私に心をゆすられていた。
それならレオン陥落のための作戦は、フローラの頼れる腹心兼ともだちはあなただけというのが正解そうだ。
『強くなろうと頑張っているけど、実はもろいところのあるフローラの支えになれる
』というのは騎士家系というのもあって、正義感も強いレオンはドンピシャだろう。
「私は強くなければいけない。強く」
「フローラ」
「そんな心配そうな顔をしなくても、訓練場以外で剣を出そうとしてみたり、身体強化しようとしたりしないわ。私の笑顔、完璧でしょ?」
「二人でいるときに、無理して笑わなくていい」
「まったく、レオンはどっちなのよ。もう!」
コンビニ店員のバイトをして鍛えた意味のない満面の笑みを披露すると予想通りの反応をくれた。
「ただもう時間みたいだ」
「エスコートしてくれる?」
直接そう何度も信頼していると繰り返すのはくどい上に嘘くさく聞こえる。
丸腰の状態で、エスコートを頼めばそれで充分伝わるはずだ。
「もちろん、必ず」
真剣な顔で私にいうレオンに向かって、手を差し出した。
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