第34話 精霊と交信なんてできるわけないだろ

ルークルーズについてみて思うのは、モノカルチャー経済でもしてるの?というぐらい小麦の畑が続いている。

よくこれで食べていけるな。

こんなに同じものを作って値下がりしないのだろうか。



「町長、歓迎ありがとうございます。早速、案内して頂けますか?」

「もちろんです」



ルークルーズの歴史を語る町長に愛想よく笑いながら話を聞く。もちろん私の一歩後ろにはレオン、遠巻きに護衛騎士がいるのがわかる。

エリアスが指揮をとっているからそうそうミスはない、はずだ。


途中、歴史を語る資料の中に小麦畑ではなく羊らしき絵を見かけて、町長に話しかける。



「あら、羊もいるのかしら」

「いえ、それは昔のことです」

「では、こちらの豆の特産品は?」

「それも今は作っておりません」



歴史の途中でスルーしそうになったが、古式ゆかしきの英式三輔農業をしていたルークルーズの時代がある。

豆の特産品、お菓子用の豆などを栽培して出荷していたことがあるらしい。


これ、不作の原因ど素人でもわかる気がする。



「今は、何を作ってらっしゃるの?」

「麦です」

「他は?」

「いえ、麦だけで、麦の方が豆よりも売れますから」



バカなのか!?


思わず罵倒したくなる気持ちをぐっと堪えて、微笑み続けた。

なんのために先人達が儲からないものを育てていたのか、少しもわかってない。



「それでは、問題の小麦畑にご案内します」



なんと言って説得するか。

今の町長は、小麦畑にしたことを誇らしげに言うからにはきっとこの人は三輔から小麦畑への変更に対して賛成派だったのだろう。

ちょっとやそっとで説得できるとは思えない。


白々しい葉、枯れているからか、生臭いような生ゴミの臭いが一部混じっている。


この状態でなぜか切り花、それも綺麗な新鮮なものを手向けている場所があり、思わず見てしまう。



「精霊様にお願いをしているのですか、なかなか…」



これか。

私には理解できないが、この世界には女神と精霊信仰がある。


女神様の部下の精霊様にお話を聞いてもらいたいとここに置いているのだろう。

精霊は幼い子どもやマルクのような女神の加護がある人には見えると言われている。


丁度よくフローラなんて女神様と同じ名前を貰ってるわけだし、それを都合よく利用したってバチはあたらない。

巡り巡って、飢饉を起こさず、領民は反乱を起こさず、私は殺されない。


win-winの関係だ。



「どうされました?」



切り花の話を聞いて思わず立ち止まった私に、レオンが話しかける。

レオン、いいタイミングだ。


レオンの問いかけに応えず、花の手向けられている方角を数秒見る。



「フローラさま?」

「…あら、レオン、ごめんなさい。

ねえ、町長、ここの小麦畑はもう枯れてしまっているけれど、豆の種は今から植えて季節に間に合うかしら」

「え、あー、少し調べないとわかりませんが」

「牧草でもいいわ。今の枯れてしまっているものを抜いて、豆か、牧草か。間に合うものに植え替えて貰ったら、2年ぐらいしたらまた小麦を育てられると……思うの」



そう言って少し花の方を見やる。


精霊様なんて見えも聞こえもしないけど、まあ反対もしないだろう。

精霊様もこんな悪臭畑よりは豆畑の方がマシと思ってくれてるはずだ。



「まさか」

「理由は詳しく言えないけれど、私はそうしたらいいと思うわ」



そう言って、町長から少し目を逸らして微妙な笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る