第30話 魔力ばかりあっても使えない

「ごめん、フローラ。こうするしか」



ずらりと並ぶ貴族の方々、これまで公爵家の娘であり、王妃候補でもあった私に対して媚を売ってきていた彼らが冷たい目で私を見据えている。


あぁ、トモダチなんていなかったのね。


優しい王子様も幻想…


いや、訂正しましょう。

ハリスは優しかった。

ただ生きる世界が優しくなかった。ハリスがこうしなければいけないほどに追い詰めた世界も、女も憎らしかった。


コーヒー色をした髪が白いドレスによく映えること。

花嫁でもないのに、そんな豪奢な白いドレスを着てくる品性を疑っていたが、彼女はここでハリスのプロポーズを受けるつもりだったとわかればその服装もわかる。

理解や納得は別だ。


個人の感想としては「全くはしたない」といったところだろうか。



「それで、ハリス殿下は私との婚約を破棄されてどうされるおつもりですか?」

「私は____________」




目を開けると、私に肩を貸すレオンがいた。寝かせられたりしているわけでもないことから、意識を狩られてから時間が経っていないみたいだ。


なに、白昼夢を見せる魔法でも使ったの。まあでも、おかげさまで無事に筋肉に入れこみすぎた魔力が分散している。

足に力を入れたら普通に立てそうだ。



「ああ、びっくりしたわ。ありがとう、レオン」

「えっ!?」

「手も足も、特に問題なく動くわ」



肩を借りているうちに手を動かして確認して、足も曲げ伸ばししてみる。


異常なし。


胡散臭い詐欺師を見るかのような目でレオンが私を見ていることに気がついた。

明らかに幼い女児に向ける目でもないし、高々1.2歳上なだけのレオンがするにしても不釣り合いな表情だ。



「かなり力を込めて使ったんですけどね…」

「あら、ごめんなさい。高いものよね、私のお小遣いで足りるかしら」



ボロボロになっているミサンガをため息ついて、レオンはポケットにしまった。

ミサンガに文様が刻まれているから魔道具であることがわかる。



「支給品なので」

「そう、補給係に代わりに謝っておいて」



1分も経っていないとレオンは言う。本来は昏倒させる魔道具が白昼夢を見せる程度にしか効かなかったみたいだ。



「人に影響を与える魔道具は使用者と使われる人と魔力や経験の差が継続時間となって現れる」

「そうなの」

「ち、父上」

「流石は直系のフローラさまですね」



辞書のように親切な解説に相槌を打っていたが、訓練所にいつの間にかエリアスが来ていたようだ。

私のお付になって、チラホラと噂でエリアスは私にかけ始めていると聞いている。


私の父親である現在の領主からの命令であっても様子見なら息子をわざわざ私に張り付けたりしない。

理由はなんだか知らないが好都合だ。

それが身を守るのに奔走してくれる騎士ならなおさらに。



「次の準備ができたのかしら?」

「ええ、お召し物をお替えください」



訓練用に与えられた騎士服も十分正装のように思えるが、それはそれ、これはこれなのだろう。



「そうね、今日は魔道具の商人はいらっしゃるかしら」




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