第29話 戦略変更

落ち着け。


謁見は普通に終えた。問題ない。


アイザックたちテリウス御一行にはお帰り頂いた。勿論アイザックたちに城のどこかに潜まれてはたまらないので、苦労を労う振りをして門番をしていた黒髪のモルドバという兵士に確認した。

アイザックはきちんと門から帰ってる。異常なし。


一方で死亡フラグのうちの一つ、飢饉の種子っぽそうな「畑が最近おかしいんです」を訴えてきた町長の街に行くことにした。

色々あって飢饉がきても、わからないながらも努力したフローラちゃんを演出する必要性を感じたからだ。



「うん、問題ない」

「領主様への報告のために現地に行きますというのは、問題ありますが…」

「悪化して飢饉が起きるよりいいかと思うのよ」

「それはそうですが…」



私の独り言を拾ったアントンに相槌をうつ。

視察を無理に止めないならアントンは様子見、次の領主の可能性がある私をテストしているのだろう。それならちょっと強く押せば落ちる。


それにしても問題はアイザックだ。

仲良くもなりたくない。

嫌われても危ない。

もう簡単に言えば触れるな危険。

触らぬ神に祟りなし、それがアイザックだ。


隣国の王子アイザックはムーンフィストの中でも好戦的な一派だった。

だから敵になる可能性のあるラングレーに偵察にきていてもおかしくはない。


納得はした。

言い訳なら無限に思いつくが、厄介なことには変わりない。


あの記憶にあるアイザックなら幼い私にも平気でナニカを差し向けてくるだろう。

毒殺の危険は、今のところなさそう。領地の食事では毒味役がいる。

政治的な策略は私を活用したい父とオスカー叔父上に期待。


そうなると残るのはあとひとつ。



「レオン、身体強化のコツを教えてくれない?」

「氷の剣を安定させてからやらないと危険ですよ」



稽古を付けてくれる約束のエリアスは午後の私の面会時の守りに奔走している。

そのため代わりに兄弟子のレオンが午後の商人が来るまでの間の稽古に付き合ってくれている。



「視察のときに、何もないに越したことはないけど、何かあったときに困るから。剣は後にするわ。反撃はレオンやエリアスに任せればいいもの」



そう、うっかりしていたが、今の私は貴族のご令嬢だ。


防御から反転して攻撃して相手にやり返すところまで想定していたが、とりあえず逃げることができれば捕縛などはエリアスたちやる気溢れる騎士筋肉がやってくれる。


とりあえず逃げる。

これが大事だ。それには剣を安定して現出させるより、身体を強化して逃げられるようにすることの方が生存率を上げる。



「魔力を使い過ぎてしまうのでしょう?フローラさまは恐らく魔力を込めるときに、漠然と腕に力を集めていませんか?」

「違うの?」

「ええ、フローラさまは魔力が大きいのでその出力でも強化できるのかもしれませんが、本来はもっと細く筋肉一筋一筋を意識して魔力を通すものです」



細く筋繊維を意識。



「魔力を止めてください!身体が壊れますよ!」

「ど、どうやって」

「なんでっ、失礼します!」



顔の前に広げられたレオンの指に、剣だこがある戦う人の手だなとか感想を持った直後。


ぷつりと意識が途切れた。

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