第28話 敵地視察

ツンと澄ました堂々たる態度でいながら卒無く淑女として微笑む幼女は僕の共犯者が次の仲間にどうかと検討するだけある。

これで僕らの年下なのだから、それは裏切られた皇子シャナクが次の仲間にと検討したくなるだろう。


挨拶しかしていないが、敵地視察の斥候で私の護衛としてきたやつらも驚いている。


椅子に座らされた彼女の小さな足は地面につかず幼さを引き立てている上に、背後に控える従者もまだ見習いらしく僕より年下の少年だ。

少年の方は銀髪で手元が白いことを鑑みればラングレーでは有力視されている出世株だろうことはわかるが、どう見ても年が足りてない。

傍からみれば領主不在時にお子様が起こした単なるわがままなおままごとにしか見えないが。


そうでないことはフローラ嬢が幼女であるにも関わらずわがまま言わず大人しくしているどころか、立派な挨拶も述べた上でこちらを注視していることからも伺える。



「ジェリクと申します」



あえて私をジェリクとしてフローラ嬢に紹介して貰って出方を見たが、申し分なし。


可もなく不可もなく。

幼女がとる行動としては有り得ないほどに真っ当な対応だった。



「んー、あの娘がいる間は無理だな」

「確かに彼女の護衛としてラングレー領にエリアス・ベルツが戻ってきていましたね」

「それだけじゃあない。彼女自身、あの囚われの皇子が警戒する相手だ。今なにかあれば陣頭指揮をとってきても不思議はない上に、読めない」



子どもと思えば痛い目を見る。

女と見くびれば寝首をかかれる。


シャナクから貰った注意の中にラングレー長子のことがあった。

調べてみれば、シャナクが抱いた警戒も当然と呆れた。この国は平和ボケしすぎて驚く。

なぜ誰も彼女に警戒せず、噂にもしないのか。


普通に考えて、5歳の女児がお金や政治のやり取りもなく、誘拐犯から無傷で戻れることがありえない。

必ずフローラ嬢には何かある。



「アイザックさま」

「どうした?」

「残っていたガルバからです。明後日、領主代理としてフローラ嬢が領地視察にでるようです」

「いい機会だ」



フローラ嬢のお手並み拝見といこうか。



「ルークルーズか、先に行こう」



視察予定の街はルークルーズ、私たちの後に謁見した町長の街だ。


私はアイザック・ムーンフィスト、ムーンフィスト王国の王位継承権第8位。

このとんでもなく微妙な継承権を上に上げられるかどうかは、自分の能力にかかっている。


決して転がり込んできた幸運を逃したりはしない。



「別に倒すだけが権力を手に入れる方法じゃあない」



彼女が本当に有能ならシャナクの言う通り、仲間として迎え入れた方が得が多い。

懸念としては貴族派筆頭の娘であるという部分だが、あくまで彼女は娘なのだからどうしても欲しい人材なら私としてとれる手がある。



「フローラ・ラングレー、また会えるのを楽しみに待っているよ」







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