第27話 イケメンの呪い
入ってきたテリウス一行を見て、思わず怒鳴りそうになったのを空気を飲み込んで堪えた。
隣国の王子アイザックが混じってる。
うんざりとした気分で回れ右をしたいが、後ろにはレオン、居住区へ続く道の前にはエリアス、隣にはアントンとなれば逃亡は不可能だ。
もちろん敵にも味方にも、心象が良くない。
若死したくないから必死こいてるのに、なんてことしてくれんだ。
私の簡単な説明をしてくれた文官の言葉のあとを引き受けて、テリウス御一行に話しかける。
きちんと笑えているかは不明だが、口角を上げて、歓迎の意を伝えた。
「ラングレーへようこそ。わたくしはラングレー領主の長子、フローラ・ラングレーと申します。
どうぞ、お気を楽にしてください。
こちらへは行商でいらっしゃったのですか?」
「…歓迎していただき、誠にありがとうございます。美しい姫君に謁見させていただき、光栄でございます」
私がはじめに挨拶を述べたあとは、行商隊の隊長役の男性とアントンの話し合いだ。
装飾品の取り扱いがありますがどうですか?いやいや、といったやり取りだ。他に特筆するような話題はなく、天気がいいですねぐらいの内容が流れていく。
アイザックはヤンデレ要員だったから、正直なところ味方にも仲良くもなりたくない。
それでも攻略対象だけあって見目は抜群にいい。
憂いのある赤みがかった紅茶色の目はヤンデレするときに赤く輝いて見えるという厨二らしい設定が有名だった。
アイザックはシャナクと近い年頃だから、私からすると若干年上になる。関わらないように努力すれば、関わらずに終えられるはず。
行商隊の面々と紹介になり、アイザックの番になった。
「ジェリクと申します」
「ジェリクはこう見えて手先が器用で」
想像つく…。
バッドエンドのときはヒロインをお手製の手錠と監禁部屋を作って拘束しますもんね。
お手製と言っていいかわからない大人な器具を駆使してヤンデレてくれる彼はそりゃあ手先が器用に違いない。
「まあそれは素晴らしいですわ。いつかまたお会いできることを楽しみにしております」
これは遠回しに貴方が大人になったらまた取引の話を持ちかけてきてね、だ。
小さい職人に対する声掛けとしてはテンプレぐらいのマナーだ。
小さな職人のメンツも、その師匠のメンツも保つためには今商品を見たいは禁句でしかない。
もし買うとしたら師匠が売るものを買うのが礼儀だ。だから小さな職人には独り立ちして大人になったら来てねと返す。
「それでは」
「ラングレーで過ごす日々に御加護がありますようちに」
「ラングレー領に天使が微笑まれますように」
アントンが微笑んで1組目の謁見が終わった。
もうベッドに帰りたいぐらいの疲労感だ。
妙にアイザックはこっちを見てたし、まあ謁見会場の形式的な最上位は私だったから仕方ないのかもしれないけど。
イケメンに見つめられて平然としているのは難しい。
私が頭を冷やして応対できたのは、アイザックの視察はそのうち起こるかもしれない戦でこの城がどうしたら落ちるかを検討しに来ている可能性が高いからだ。
ラングレー領で死にたくなければその企みを阻止する必要がある。
レオンから渡された水を飲んで休憩してから次の組を迎えることとなった。
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