第26話 公務デビュー

素晴らしく気合いの入った謁見者はなんと朝イチにいらっしゃるらしい。

幼児の私にとってはまだまだ眠い時間ではあるが、これも仕事。怠けると容赦ない未来が待っている。


マリエッタではない女中の手で可愛らしいご令嬢に変身させられた私は短い髪の毛を綺麗に編み込まれた。

編み込みなら短くてもバレないよね。流石公爵家に使える女中である。


部屋の前で出待ちしてくれているのはエリアスとレオン、この親子は横に並ばなくても似ていると思っていたが、並ぶとより似ている。



「フローラさま」

「もういらしてるの?」

「いえ、まだですが」

「レオンもエリアスも来るなら問題ないでしょう?」



私が謁見に立ち会うと聞いて反対したのはまさかのエリアスだった。


以前に私が攫われたときもお守りできず…と悔しがっている様子から単に私の身辺警護を気にしているみたいだが、誰が敵で誰が味方かが不明な今は怪しく思える。



「それはわかっております。ですから、本日1日、レオンが付き添います」

「もちろんよ。ありがとう、よろしくね」



レオンを従者見習いとして私に付けてくれるらしい。

レオンはラングレー領を表す銀の縁どりをされた騎士服を身につけ、訓練用ではない真っ白な魔法陣付きの手袋まで着けている。


モブもはいえ、乙女ゲームのモブ。

なかなか見栄えがいい。



「とても似合っているわ。頼りにしてる。さて、行きましょうか」



エリアスに促されて、レオンは昨日と異なり、私のエスコートをすぐにはじめた。



「謁見は、ラングレー中央に近い町の町長と、隣国から来た商人でございます」

「分かったわ」

「フローラさまはこちらに。すぐに判断をくだされず、領主へ取り次ぐとお返事をお願いいたします」

「わかりました」



アントンの説明を受けながらも、レオンのエスコートで、大きな広間の上座の椅子に座らされる。


なんかこの広間見たことあるわ。

んー、なんだったかな。


考え事をしながら、あたりを見渡す。

いや、この広間、銀髪多過ぎでしょ。



「銀髪が、やけに多くありませんか?」

「今日の謁見の間は最大配備で護衛していますから、剣を現出できる騎士を配備しています」

「なるほど」



ラングレーの魔力持ちの属性がほとんど氷となれば、この広間に集まるのが銀髪だらけになるのは当然みたいだ。

これだけ銀髪多いと、☆恋でべた褒めされていたハリスの銀髪が霞んで紛れてしまう。


ハリスをラングレーに連れてきたらたぶん見失う。妙な確信をもって、まだ会わない従兄弟に内心で謝っておいた。



「そうね…」



もう一度広間を見渡して、私の後ろにかかる大きなラングレーの紋章を見つめる。

紋章を見覚えがあるのは当然だけど、広間を覚えている気がしているのはきっとフローラではなく、私の方。

目を閉じて今の光景を無理やり小さな画面に押し込んでみる。


……思い出した。


この広間の既視感、焼け落ちる城で高笑いするオスカーのスチルか。

頭が整理されてすっきりされたところで、高らかな声が響いた。



「一組目、テリウス御一行」



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