第24話 領地のおともだち
ちょっとした騒ぎを起こして退出した先には、こんな生活の中でのご褒美と言って良い可愛らしい空間が待っていた。
いや、なんだか言葉だけ見ると変態くさい。でも状況を知ったら同情で指さして「へんたい!」と叫ぶのはよしてもらえないだろうか。
私がそんな他愛もない一人劇場を頭の中で繰り広げていることなんて露知らず、可愛らしい二人は私に挨拶をしてくれた。
「マリエ・ホフマンと申します」
「エミリ・ジングフォーゲルです」
レオンに促されて連れていかれた中庭には二人の先客がいた。
長い艶のある髪を高く結いている意志の強そうな女の子、マリエ・ホフマン。そして、私の知る☆恋の世界でも、目立っていた赤い二つ結びの少女、エミリ・ジングフォーゲルだ。
二人とも贅を凝らしたというには欠けるが、貴族として恥ずかしくは無いぐらいの刺繍を施された丈の長いワンピースを着ている。
まあ可愛い。拙い挨拶だけでも可愛い100点!と言いたいところ。とはいえ、近くに騎士がいるのに私から褒め言葉を述べるのはおかしな話だ。
そう思ってレオンに目をやれば、レオンが二人と訓練用騎士服を着ている私と見比べている。この子、思ったよりも気が利かないのかしら?それとも子どもだし、そんなもの?
第一、なにもそんな見比べされなくてもどちらがご令嬢に相応しいかぐらいわかってるわ。思わずレオンの足を踏んで仕返しをしたくなったが途中でやめた。
目の前にいるご令嬢は、ラングレー領からスターシア学園に一緒に入る数少ない学友だ。いくらレオンにイラッとしたとしても目の前でレオンの足を踏みつけるところを見られる訳にはいかない。
「ご挨拶ありがとう。私はフローラ・ラングレー、本日王都より戻りました」
「フローラさまがしばらくこちらでお過ごしになると、ぱ…おとうさまから聞きました。えと、仲良くしてください」
マリエが、可愛すぎる。
その後ろで大きく頷いて同意を示しているエミリももちろん可愛い。
シャムはヒロインだし、エルは年齢不相応に育ってたし、マルクは地雷だったし、レオンは敵にならないように攻略しなきゃ行けない。
これまであった同年代で真っ当なお友だち候補がいなかった。
だが、ここに来てこんなに可愛いお友だちが現れるなんて。この厳しい世界もようやく私にご褒美を与える気になったらしい。
なぜなら、この子たちはフローラが悪役令嬢になってもお供してくれる可愛い可愛いお友だちだ。
「マリエ、エミリ、二人と、仲良くなりたいな。また遊びにきてくれる?」
それに何より、この子たちは中身まで真っさらな子どもだ。貴族だから同年代の本来の子どもよりは礼儀正しく大人しいが、どこぞの皇子たちのようにグネグネに捻くれたりしていない。年相応だ。
近隣領なのだからもう少し気安くて良いはずの私相手にすら少し緊張しているのが伝わってくる。
「も、もちろん!」
「フローラさまはお人形で遊ぶのはすき?絵本がすき?」
「絵本が好きかな。今度、絵本を一緒に読もう」
可愛らしい二人と次の約束をすると、今日は顔合わせだけのよていだったらしく、お付の人が迎えにきた。
「マリエちゃん、エミリちゃん、またね」
温かい気持ちになって手を振って見送った。こういう幸せな魔法は解けるのが早い。可愛らしいお友だちで浮かれていた私の意識が現実に帰ってきた。
「完全に可愛い令嬢を口説く騎士でしたね」
「罪なくらい可愛かった…」
二人と話している間は黙って見守りの姿勢だったレオンも、二人が退出したら容赦なかった。そんなレオンの冷たい対応もどこ吹く風で受け流す。
これはレオンが既に私へ親近感を持ってくれていると見て間違いなさそうだ。
これならテンプレであるものの仲良くなるには効果的な方法をとることができる。
同年代の子どもが現れて、私の一番近い位置に自分以外が座る可能性を見たレオンに対して効果的な方法はこれだろう。
「レオン、私もレオンのことをレオンと呼ぶからレオンも私をフローラと呼んで欲しい。
まあ2人のときだけにはなるけど。口調もタメ口でいいよ。もちろん公のときはダメだけど」
「…仕方ない。フローラ、もうじき晩餐の時間になる。そろそろご令嬢に戻っていただきましょうか」
私に多少なりとも好意を持っていて取り入りたいと考えているなら、ライバルが来たとしても「あなたが私にとって特別な位置ですよ」と示せば懐に入れる。
私がわかりやすく、レオンが特別な位置に置きたい相手だと示したのが嬉しかったのか、レオンはやや饒舌に私を私室に案内してくれた。
あれ、この子、意外とチョロそうだぞ。
「改めて、よろしく」
「こちらこそ」
もしかしたら狐の笑顔は本気でただの笑顔なのかもしれない。
ニッコリと笑ったレオンの顔がさっきと同じように狐じみていて、思わず噴き出して笑ってしまいそうになった。
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